第28章 – 出発、残り5日
長い道のりを歩み終え、俺たちはついに港へと到着した。
「うわあああ! 魚の匂いだ! お腹空いたよーっ!」
ホウネンギョはぴょんぴょんはねながら叫んだ。
「パパ、海に行って魚を捕まえてこようか?」
「そうだな、お前が泳いで自分で餌を獲ってくれれば、旅費が浮いて助かるよ」
キックが冗談めかして言った。
「それもいいね! ひれを動かすのも本当に久しぶりだしさ、アハハハ!」
「それもいいけどな」ツバサが口を挟んだ。「でも、一応船の切符は買っておくよ。疲れ果てた時に休める場所が必要だろ」
「うん、そうだね」
ユカタは肩の荷物を担ぎ直した。
「さて、三人で行きましょうか?」
「もちろん」
ツバサが答える。
「二人は先に行ってて」
ホウネンギョが、いつになく真剣なトーンで遮った。
「パパと二人だけで話したいことがあるんだ」
キックは一瞬、水の精霊をじっと見つめたが、何も追及しなかった。
「好きにしろ。行こう、ユカタ」
二人きりになると、ホウネンギョは鶏に向かって身をかがめた。
「ツバサ」
ツバサはビクッとした。
「え……な、何!?」
精霊が「パパ」ではなく、彼の名前を直接呼んだのは、これが本当に初めてのことだった。
「よく聞いて。ツバサがあのユカタって男をものすごく信頼しているのは知ってるけど、僕はあいつが気に入らない。魔界で仲間に加わってからというもの、あいつは四六時中ツバサを監視してる。寝ている時でさえ、時々近くをうろついているんだ。さっきキックと一緒にいた時、あいつを問い詰めてみたんだけど、何も話そうとしなかった。絶対に何かよからぬ企みをしているはずだよ。いつ仕掛けてくるかは分からないけど、警戒しておいてほしいんだ」
「……うーん、分かった。気をつけておくよ」
ツバサはゆっくりと答えた。
「実を言うと、俺も少し前からあいつのことを観察していたんだ。あの絶え間ない笑顔も、仕草も……何もかもがひどく嘘くさい。まるで何か別のキャラクターを演じているかのようにな」
「じゃあ、今すぐ僕に始末させてよ」
ホウネンギョは鋭い牙を剥き出しにして唸った。
「あいつを消しちまえば、問題は一発で解決だ」
「ハハハ、遠慮しておくよ」ツバサはため息をついた。「お前だって、以前は残忍な存在だっただろ? でも今はこうして俺の隣にいる。あいつにだって、更生のチャンスはあっていいはずだ。殺しちゃダメだ。今のところ、証拠がない以上、俺はあいつを敵だとは思わないよ」
「……わかったよ」
一時間後、全員がそれぞれの客室に落ち着いていた。船内には静寂が満ちていた。
「よし、無事に乗船できたし、僕は泳ぎに行って船の周りをぐるっと一周してくるね!」
ホウネンギョが宣言した。
「行ってらっしゃい、楽しんでおいで。でも気をつけるんだぞ」
自分の部屋で、キックは静かに自身の神器を見つめていた。その魔法の宝珠は、奇妙な光を放ちながら波打つように明滅していた。
「さて、俺は船内の食堂にでも行って飯を食うとするか。先に行ってるよ」
ツバサは通路に向かって声をかけた。
隣の部屋の扉が開き、ユカタが姿を現した。彼はいつもの笑顔でツバサを見つめた。
「俺もご一緒しますよ。お腹も空きましたしね、アハハ!」
「うーん……ああ、もちろん。行こうか。キック、何か買ってきてほしいものはあるか?」
「いや、気にしないでくれ」
魔術師は客室の中から答えた。
「腹が減ったら自分で勝手に食べるから」
「分かった、じゃあな」
ユカタは背後の扉を閉め、ツバサの後ろにピタリと付いて歩いた。薄暗い通路に、重苦しい沈黙が立ち込める。聞こえてくるのは、船体のきしむ木の音と、ホウネンギョが水中で立てている遠い波しぶきの音だけだった。
「それで……?」
ツバサが切り出した。
「しっ。私は静寂が好きなのですよ」
ユカタは笑顔を張り付かせたまま囁いた。
「そりゃどうも……」
(うーん……あいつ、ここで俺を殺すつもりなのか、そうじゃないのか?)
ツバサは胸を高鳴らせながら考えた。
(いや、俺の考えすぎだよな……)
「おや? 何かおっしゃいましたか?」
商人が尋ねる。
「あ、いや、何でもない! 気にするな、ユカタ、アハハ!」
「ギャアアアアアアッ!!!!」
絶叫が空気を切り裂いた。
あの穏やかな船から遥か遠く離れた地では、戦場が爆弾の嵐、ひしゃげた金属、そして負傷者たちの悲鳴が渦巻く、まさに地獄絵図と化していた。
ルシアンはその混沌の渦中を舞うように駆け抜け、致命的なまでの優雅さで敵の攻撃を避けていた。何と言っても、彼はアリシア王国のエリート騎士隊長なのだ。
彼の隣では、タルが凄まじい精度で槍を操っていた。彼女の肌をかするほどの僅かな刃も、水の加護のおかげで、傷口は瞬時に塞がっていった。
最前線から少し離れた場所では、ゴウがステラ王国の兵士たちと剣を交えるフリをしていた。誰も傷つけないよう細心の注意を払いながら、全体の戦況に目を光らせている。
しかし、乱戦のただ中心で、一人の男が暴れ狂っていた。
ステラ王国の隊長テンコは、ドヴ王国の兵士たちの首をはね、虐殺することに、おぞましい快楽を見出していた。鎧に返り血が飛び散ろうとも、彼は一切意に介さない。
彼は笑っていた。武器がぶつかり合う凄まじい轟音をかき消すほどの、あまりにも力強く、狂気じみた笑い声だった。
「ハハハハハハハハハ! 我々はステラ王国! 太陽の星だ! 決して忘れるなよ! アーハハハハハハハハハハッ!」
第28章 完




