第19章 ― 騎士の選択
太陽が沈み始め、魔界の赤い光が庭を覆っていた。
ルシアンとタルは、何時間も訓練を続けていた。
— もっと速く!ルル!
タルが笑いながら叫ぶ。
ルシアンは踏み込み、木剣で彼女を狙った。
バキッ!
またしても攻撃はタルの氷の体に阻まれた。
ルシアンは息を切らしながら後ろに下がる。
— ちょっと休憩、いいか?
— もちろん!でも、ちゃんと上達してるよ。
ルシアンは草の上に座り込んだ。
腕が痛い。
ここ三日間、彼はずっと精神内魔力を習得しようとしていたが、まだ成功していなかった。
その時、街全体に声が響いた。
— おーい!おーい!グルアの住民たちよ!北の森に近づくな!人間と魔族の騎士たちがまだ水の精霊と戦闘中だ!だが、被害は甚大だ!
ルシアンはすぐに立ち上がる。
— 何だって?
タルが彼を見る。
— ああ…そうか、知らないんだね。
— この声は?
— 伝心の祝福を持つ伝令だよ。街全体に声を届けられるんだ。
声は続いた。
— 住民は全員、家から出ないように。敵は非常に危険だ。
ルシアンの顔が青ざめる。
— ツバサ……
— え?
— テツヤも……キックも……そこに……
拳を強く握る。
— 行かなきゃ。
駆け出そうとした瞬間、肩を掴まれた。
教授Jだった。
— 待て。
— 先生……友達が危険かもしれません!
教授は落ち着いた目で見た。
— 今行って、お前に何ができる?
ルシアンは固まる。
— 俺は……
— まだ精神内魔力を扱えていない。
沈黙。
— 今行けば、ただの足手まといになるだけだ。
その言葉がルシアンの胸を突き刺した。
彼は俯く。
心のどこかで、それが事実だと分かっていた。
— でも……ここにはいられません。
— なら考えろ。
教授Jは肩に手を置いた。
— 騎士とは何だ?
強くなることか?
それとも仲間を守ることか?
時には、その両方は同時にできない。
ルシアンは震えていた。
ツバサの笑顔。
キックの冗談。
テツヤとの訓練。
それらが頭をよぎる。
歯を食いしばる。
— 俺は……
タルが近づく。
— ルル。
彼女は笑っていたが、その目には不安があった。
— どんな選択でも、私は一緒に行くよ。
ルシアンは彼女を見る。
そして深く息を吸った。
— 俺は助けに行く。
教授Jは少し微笑む。
— やはりそう言うと思っていた。
— え?
— 仲間を見捨てる騎士は、もう騎士とは言えない。
ルシアンは目を見開く。
— でも……
— お前はまだ未熟だ。だが、訓練では教えられないものもある。
家の中へ入り、数秒後、小さな銀色の鍵を持って戻ってくる。
ルシアンに差し出した。
— これを持て。
— 鍵……?
— アリシア王国に戻る前に、ステラ王国へ行け。
— ステラ?
— この鍵は、お前の未来を変える“何か”を開く。
— それは何ですか?
教授Jは笑う。
— 教えたらつまらないだろう?
タルが笑う。
— お父さん、そういうとこあるよね。
— おい!
そして真面目な顔に戻る。
— 一つだけ約束しろ。
— 何を?
— 生きて帰ってこい。
ルシアンは鍵を握りしめる。
— 約束します。
タルが小さく笑う。
— じゃあ私は一緒に行く。
— えっ!?
— 将来の旦那を一人で行かせるわけないでしょ。
— タ、タル!
彼女は笑った。
そして二人は森へ向かって走り出す。
ルシアンの手の中で、銀の鍵が赤い雲の下でかすかに輝いていた。
まるで次の旅を待っているかのように。




