表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/35

第10章 ― 僕にとって大切なものを失った日



— お前……!


— 殺してやる、この野郎!!


『傲慢』はテツヤを指差し、怒りを露わにした。


— あれだけのことをしておいて、よくもそんな顔で戻ってこられたな!!


仮面の男はわずかに首を傾げる。


そして、テツヤは肩をすくめた。


— うーん……。


— でも残念だな。


— お前が挑んだ相手は、俺じゃない。


彼は穏やかな口調のまま続ける。


— 騎士として、決闘のルールは守る主義なんだ。


— だから俺は手を出さない。


— これは、お前とルシアンの戦いだ。


『傲慢』は歯を食いしばった。


— 騎士の名誉だと?


— そんなもの知るか!


その声には、今までにない怒りが込められていた。


— 人間なんて、いつ死ぬかも分からない存在だ!


— ルールを守ろうが守るまいが、何も変わらない!!


しばらくの沈黙。


やがて――


— アハハハハハハ!!


『傲慢』は突然笑い出した。


その時、キックが静かに尋ねる。


— ……あなたは、人間のことを随分と知っているようですね。


『傲慢』は仮面に手を添えた。


— 我らが彷徨う魂となってから……


— ずっと見てきたからな。


— 器を選ばねばならない。


— 強くて、使いやすくて……面白い器を。


その時、ルシアンが一歩前に出た。


— 俺を忘れるな。


彼は新たな剣を抜く。


— せっかくだ。


— この剣を試してみたい。


『傲慢』がゆっくりと振り向く。


— ……ほう?


そして、大笑いした。


— アハハハハハ!!


— そうだった、お前がいたな!


彼は巨大な刀を持ち上げる。


ドォン!!


地面が大きく揺れた。


— 今日の私は、鞘を抜かない。


彼は背後の町をちらりと見る。


— 抜けば……


— この町が消し飛ぶかもしれないからな。


僕は思わず唾を飲み込んだ。


(本当に……化け物だ。)


その瞬間、ルシアンが駆け出す。


『傲慢』が拳を振り上げる。


だが――


ルシアンの姿が消えた。


背後へ。


さらに横へ。


そして再び背後へ。


一度。


二度。


三度。


キィン!!


三つの斬撃が『傲慢』を切り裂く。


次の瞬間――


ボォォォン!!


爆炎が巻き起こった。


僕は目を見開く。


— えっ!?


— 今、何をしたの!?


キックが感心したように微笑む。


— 火の精霊を三体。


— 相手の体内に配置して、同時に爆発させたんですよ。


— 実に賢い使い方です。


— おお……。


煙が晴れていく。


しかし――


『傲慢』はそこに立っていた。


少し焦げているだけで。


そして、また笑う。


— アハハハハハ!!


— 最高だ!!


彼は足を踏み鳴らした。


バキィッ!!


無数の岩が地面から飛び出す。


さらに、それを拳で殴り飛ばした。


砲弾のような速度で、岩が迫る。


ルシアンは手を掲げた。


— 大地の精霊よ!


岩が集まり、巨大な壁を形成する。


ドォォン!!


だが。


『傲慢』は、それを蹴り一発で粉砕した。


僕は口を開けたまま固まる。


— 嘘でしょ……?


その時。


『傲慢』が手を伸ばした。


— なかなかいいものを持っているな。


— ならば……貰おう。


次の瞬間――


彼の体が崩れた。


紫色の球体となり、一直線にルシアンへ向かう。


テツヤの表情が変わった。


— まずい!


だが、遅かった。


球体はルシアンの体を通り抜ける。


数秒。


世界が止まったかのような静寂。


そして球体は再び『傲慢』のもとへ戻った。


— アハハハハハ!!


ルシアンがよろめく。


— ……何だ……?


彼は自分の手を見つめた。


— どうして……


— こんなに、空っぽなんだ……?


『傲慢』は愉快そうに笑う。


— 簡単なことだ。


彼は一本の指を立てた。


— お前の精霊を盗んだ。


沈黙。


— 大地の精霊。


— 風の精霊。


— 氷の精霊。


そして、笑う。


— 加護も欲しかったが……


— それだけは奪えなかった。


ルシアンは歯を食いしばった。


— ……化け物め。


彼は剣を構える。


— まずは、その仮面を叩き割ってやる!


その瞬間――


僕の血の気が引いた。


『決して、あの仮面を外してはいけない。』


神の言葉が蘇る。


— ダメ!!


全員がこちらを見る。


— ルシアン!


— 絶対に仮面に触っちゃダメだ!!


『傲慢』がゆっくりと僕を見る。


— ……ほう。


声が低くなる。


— 小さなニワトリよ。


— お前は……何を知っている?


僕は思わず息をのんだ。


怖い。


本能がそう告げていた。


しかし――


ルシアンは静かに剣を下ろした。


— ツバサがやめろと言うなら……


— 俺はやらない。


沈黙。


そして――


『傲慢』は再び笑った。


— アハハハハハ!!


— 面白い!!


次の瞬間、彼が僕へ突っ込んでくる。


— ならば最初にお前を殺してやろう!!


しかし。


僕の前に、一つの影が立った。


テツヤだった。


彼は片手で、その一撃を受け止めている。


— 忘れてないか?


その声は、どこまでも静かだった。


— お前の相手は、ここにいる。


『傲慢』は歯ぎしりをする。


やがて、小さく息を吐いた。


— ……興が削がれたな。


彼は刀を肩に担ぐ。


そして、僕たちを順番に指差した。


— お前。


テツヤ。


— お前。


ルシアン。


そして――


— お前だ、小さなニワトリ。


僕はごくりと唾を飲む。


彼の声が冷たくなった。


— 次に会った時……


— 必ず全員、壊してやる。


その姿が煙へと変わり、消えていった。


静寂が戻る。


僕は大きく息を吐いた。


— し、死ぬかと思った……。


するとテツヤが笑う。


— 俺がいる限り、そんなことにはならないさ。


僕は彼を見上げた。


— ……ありがとう。


彼は優しく僕の頭に手を置く。


— だって俺は――


— お前の兄貴だからな。


僕は笑った。


— 加護の兄弟だけどね!


— それでも兄弟だろ?


彼は声を上げて笑った。


その時。


キックがわざとらしく咳払いをした。


— ゴホン。


— まだ私たちがいることを忘れないでください。


僕は振り返る。


……少しだけ機嫌が悪そうだ。


— とりあえず、王への報告が先です。


そしてルシアンを見る。


— それと……その神器も登録しないといけませんね。


ルシアンは視線を落とした。


— ……分かっている。


キックは小さく息を吐く。


— 三つの道を極めるまで、神器は使えません。


— 剣。


— 魔法。


— そして精霊。


ルシアンは黙っていた。


やがて剣を差し出す。


— ……理解した。


キックはそれを受け取った。


— 準備が整ったら返します。


テツヤが頭をかいた。


— 悪い。


— 神器の話をしすぎたかな。


キックはじっと彼を見る。


— 今後は控えてください。


— はは……善処する。



その夜。


僕たちは王国へ戻っていた。


報告を終え、


神器を封印し、


そしてルシアンの家へ帰ってきた。


シャワーを浴びて、


部屋へ戻る。


僕はすぐに眠ってしまった。


まるで、本物のニワトリみたいに。


けれど――


ルシアンだけは起きていた。


ベッドの端に座り、


じっと自分の手を見つめている。


やがて、指を一本立てた。


— 風の精霊……


静寂。


何も起こらない。


— 大地の精霊……


返事はない。


彼の肩が、小さく震えた。


もう一度。


— ……来てくれ。


それでも――


何も。


彼はゆっくりと顔を伏せた。


長い間、


精霊たちはずっとそばにいた。


力であり、


仲間であり、


自分の一部だった。


それが今は……


何一つ残っていない。


拳を握り締める。


声が震える。


— ……嫌だ。


— 認めたくない……


彼は天井を見上げた。


— まさか……


— 俺を俺たらしめていたものを……


— 失ったというのか……。


答える者はいない。


やがて彼は、


封印された神器が置かれている場所へ目を向けた。


今の自分では、使うことすらできない剣。


ゆっくりと目を閉じる。


そして――


小さく呟いた。


— 必ず……取り戻す。


再び目を開く。


そこには、強い決意が宿っていた。


— 何を犠牲にしてでも……


— 俺は、精霊たちを取り戻す。



第10章 ― 僕にとって大切なものを失った日 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ