第四話 『』と邂逅
いや夏来るの速すぎ。春秋ないやん夏冬やんけ。誕生季返せ。
誘拐されました。
冗談はさておき、俺は今、クロワゼ本部兼家にいる。荒剛との戦いが終わった後、すぐに四脚がついた丸いヘリ?が来て、連れ去られた。その中でいろいろな説明を受け、風呂にぶち込まれて、本部内を案内されて……そして今に至る。もう今すぐ帰りた。
「名前は?」「好きな食べ物は?」「支配能力は?」「好きなタイプは?」「得意な武器は?」「趣味は?」etc、、、
このように質問の大波が雷雨のように激しく、矢継ぎ早に飛んでくる。強面の男性に迫られて通常の答えを返すのは無理に近い。
そこでその荒波の中の一人の男性に気づく。初見だ。
「あれ、あんたは…?」
「おれはエトロス・クライニス。好きなのはぁ…」
そこでデニッシュグラタンを抱えた迅が止める。
「待て待て、どうせならここにいる全員紹介しよう」
そんなキラーパス送られても
「俺は断花 迅。『速度』を支配する。料理が好きかな」
俺と同じくらいの身長の金髪オールバック。エプロン似合ってる。
「次オレ?ラグナ・クガラだ、よろしく」
丸い目模様が刻まれ、鼻部が尖った仮面をつけた半裸変態騒音。
「俺はエトロス・クライニス。好きなもんは迅の料理」
黒刀を携えた荒くも優しいお兄さんといった印象。
「ニコラス・スフィナ・ロルガート。開発研究部主任だ」
目の下に隈を作った三十代後半の研究者のように見える。そしてなぜ椅子ではなく球に、しかも座るでも立つでもなく屈んでいる?
「玲」
静かな男子だ。端正な顔立ちをしているがおそらく同年代だろう。
「今はここにいるメンバーだけだが基本こいつらが幹部だ」
ふむ、少数先鋭ってことかな。
「をい、こいつのこと聞いてないじゃねぇの」
クライニスさん!?今流される感じだったよねぇ、こういうの苦手なんだよ⋯
「木山夜一です。支配能力はわかってない」
「タメでいいよ」
そうクライニスが言い添える。
「よし、終わったな。じゃあ新入を祝って、乾杯!」
「「⋯乾杯」」「「カンパァーイ!」」「乾杯」
多種多様な乾杯に微笑をこぼしながら、あふれんばかりの料理に手を伸ばす──
◆
「よし、とりあえず今日は遅いからお開き、しっかり寝るように!以上、解散!」
そう迅が手を叩くと皆自由に散っていく。
「じゃあまず夜一の部屋に行こう」
え、まじすか感激。
そう感嘆しながらついていくと、一つの鉄のドアの前に着く。ドアの取っ手らしき場所を指差し、
「てをおけ、ここに」
と言われるがままにするとドアがスライドしその部屋の全貌を明らかにする。
「広ぉ…おぉ」
全体的に黒と赤を基調とした六畳半くらいの洋室だ。室内にはエアコンやコンパクトな机、足の揃ったカーペット。その他ベッドなど基本家具は揃っている感じだ。
だがそこで一つの疑問が浮かぶ。
「こんな部屋をどうやって準備を?」
俺が迅に見つかって戦場から返ってくるまでに準備?こんな家具そんな素早くできない。
思い返せば宿《白樺》でも俺をさがしているような口ぶりだった。
疑う理由も立場もないが。
「んーとな、まず、俺達はお前が今日来ることを知っていた。ニコ、〈目録〉持ってきてくれ」
浮動する球体とともにリビングへ戻る。
「説明しようか、この世界には【遺物】と呼ばれるものがある」
無言のまま頷きで返す。
「遺物とは過去にあった何かしらの権能や能力を持つ物だ。〈目録〉世界有数の目録が一冊…これの正式名称を【唯一つの世変目録】という、ありがとうニコ」
球体は辞典のような古びた本を抱えている。
「これもその一つ。これの能力は「世界の変化を記す」ことだ」
「なるほど、つまりそれで俺の来訪を知ったと」
「そうだお前ら…〈稀客〉は何かの「特別」を持ってくると言われている」
「それで俺を探して…」
その「特別」が何かにも寄るがなんにしてもとりあえず欲しいわけだ、特に戦闘が多いこの世界では力が全てなわけだ。
「この目録は世界に七冊確認されてる。【制定目録】【世岐目録】【個脆目録】【死亡目録】etc…」
世界の変化ね⋯俺が変化に入るんでしょーかね。”特別”とやらによるが。
「そして”世岐”と”個脆”にはおそらくバレてる。」
「”楽郷”にも多分な」
「これからはより激しいそしてお前を狙った輩が増えるだろうが頑張ってくれ」
んー?なんのために俺攫われて死にかけたの?
「それだけお前が重要なんだ。うちにとっては特にな」
口数の少ないロルガートが言葉に含みを持たせる。
「とりあえず寝るか、じゃグッナイ夜一。詳しい話は明日するよ」
「あい」
今日は色々ありすぎたな。それにしても異時元とは実感が湧かないな⋯
部屋の電気を消し、今日を振り返りながら予想よりも柔厚なベッドに潜り込む。まだ初秋なので寒さはないが、先の戦場での死の悪寒から逃げるように布団を被る。
「死んでたよなぁ俺」
まさかこんなところで祖父の教えが役に立つとは思わなかったが、それがなかったら今頃土とおねんねしてたな。
だが俺はそれ以上に、死の恐怖よりも、戦闘の愉しさを覚えてしまった。いや、知ってしまった。
「ははは⋯帰れないな⋯」
から笑いを無人の部屋に響かせ、そのまま眠気に身を委ねる───
◇
「ん⋯」
見慣れるぬ天井に出迎えられ、眠気から解放される。
よく考えたらこの二日まともな覚醒をしてないな、と重い体を起こす。
部屋を出てリビングに向かうと皆起床済みのようで、眠たげな様子で食卓についている。
「おあようよるいち」
唯一挨拶してくれたクガラはまだ眠気の抜けないようで、テーブルに突っ伏してキッチンに居る刃をボーッと見ている。
「おはようございあす」
「できたぞ〜、あ夜一おはよ」
今日はパン祭りだそうで、多岐にわたる種類は数え切れない。各々が好きにパンを手に取る。
「夜一、お前こっちに来る前に何か、武道を習ってたか?」
こっちというのは前の時代のことだろうか。
「【琉渦天然流】っていう総合武術と、剣道を少し」
「なるほど、聞いたこと無いな」
「まぁいいんじゃねぇか?対人の心得があるんなら」
「そうだな。夜一、今から全団員との模擬戦をやってくれないか」
はい??模擬戦、その言葉をうまく読み込めずに頭の中で回す。
「あぁもちろん拡張現実だから。こっちとしても死なれちゃ困るんだ」
えぇ⋯まぁ現代の方でも何回とやってきたからな⋯
「じゃあ来い」
そう言い、連れて行かれたのはリビングから入口の方、向かって左手にある部屋だった。
「ここは〈第一練習室〉。で、今回は誰からやる」
そう言いでてきたのは意外な人間であった。
「俺から行こう」
「クライニスな、じゃあ二人ともそこのカプセルに入れ」
クライニスは手慣れた様子で入っていく。
葉巻型の細長く、丸みを帯びた容器だ。人一人が余裕を持って寝れるぐらいのスペース。中は謎の水で三分の一まで満たされており、現代にあったVRヘッドセットのようなものが置かれている。
「そのギアを付けて寝っ転がっててくれ」
◆
言われるがままにすると、開いていたカプセルの蓋が閉まり、身体が包みこまれるような感覚。ヘッドギアで何かは見えないがおそらくあの謎水が満ちていってるのであろう。不思議と窒息感はなく、やがて視界が開ける。
そこは更けた岩岳地帯であった。自然と呼ばれるものは見当たらず、ところどころ岩石が隆起している。
すると天から迅の声がする。
『ルールは一本先取。お互い支配能力、遺物有りのバーリトゥード。そこは現実拡張仮想空間だから好きにやってくれ』
俺はなにも持ってないしなにも知らないがな⋯!和泉ィ⋯まだ信じてるぞ
「あぁ、夜一はその刀使え。じゃあ、はじめ!」
俺の目の前に蒼くきれいに濁った刀身の、明らかに真剣が電子的な転送を経て届く。
まずは、慣らす
薄々感づいていた俺の支配能力。イメージ通りの流れるような動きができる。
『動』
おそらくそれが俺の支配能力。その前提で戦う。
すると隆起した岩の陰からクライニスがでてくる。
「いたな。さぁ戦ろうか」
「くそ⋯!速いな」
適当に刀を慣らしておくつもりだったんだが⋯こうなれば仕方ない
「ん〜、お互いなにも知らないのは違うか。俺の支配能力は『吸収』。この刀の銘は【天吭】」
「【琉渦天然流】。剣道⋯流派は、」
過去をゆっくりと咀嚼するように思い出す、そういえば東雲家とは仲良かったな。よく教えてもらって、試合なんかもやった。
この剣術は、特に難しいものだったから
「【居合、白綴流】」
「!」
クライニスから、また天にあるであろうスピーカーからも驚きの反応が返ってくる。
「なんだ⋯?」
「おま⋯白綴流?⋯まぁいい、やろう」
驚きを隠せない様子だが、いい。
「【由楽刀】」
自由を象徴した奔走、しかし型に流し込んで
「ははっはははは⋯!これは本気でいかせてもらうぞ、迅。本物だ」
居合の構えをとる。おそらくこの世界なら、辿り着けるかもしれない。
「【白薙凪】」
最速へと
「⋯!」
横一閃。空を薙ぐ。もとあったはずのクライニスの身体は既に無い。代わりに俺の右から回り込んできている。
「【偽兇一刀流】」
雑とも見える押すような斬撃を白い刃で受ける。鍔迫り合いの拮抗の後、お互い刀身を流し距離を取る。
再度、居合の構えをとる。クライニスを一瞥すると、見たことのない構えで、中腰になっていた。
重心は低く、刀身は身体の後ろに構え身体の隙間から黒刀の煌めきが見える。
突如、クライニスは走り出す。一直線に向かってくる。が、刀身が、太刀筋が読めない。
右手左手、順手逆手。曲芸のように刀を操りながら接近してくる。
超近距離戦闘。右から迫る刀を、ようやくその時目に捉える。脊髄の驚異的な反射速度で、刀を受け止めている。
「これに反応するか!」
クライニスの生み出した【偽兇一刀流】は、敵に情報を与えない。自由に、まるで体の一部かのように刀を扱う。その不明瞭な太刀筋は直前まで刀の所在を相手に知らせない。
しかし常人には扱うと自信の身を傷つける可能性があるため、使うことができない。
その異次元の剣術は、奇しくも夜一の剣術と方向性が合致する。
自由と自由の押し付け合い。
⋯初見でコレを防げる新人を見たことがねぇよ。どうゆう動体視力と反射神経してやがる。しかし白綴流【由楽刀】、玲の使う剣と同じ⋯!それなら、アドバンテージは俺にある。
偽兇一刀流⋯おそらくクライニス自身が生み出した流派だろう。洗練され、なにが正解の太刀筋か直前まで読めない⋯!小手先では負ける。ならば──
幾度と続く剣戟を夜一は強引に力で集結させ、居合を構える隙を作る。
ずっと、迅から話を聞いたときから試そうと思っていた。支配魔力が、エネルギーなら、それを巡らせるなら、転用できるのではないかと。爆発させ、推進力を得ることもあるそうだ。
納刀。支配魔力を極限状況で知覚し、巡らせ、溜める。
一方は、静かにその時を待つ。一番動きやすい体勢で。
爆発、とともに凄まじい速度で抜き放たれる神速の居合。
それに反応すべく振られる虚偽の魔剣。
お互いの剣閃が交錯する。
ぱきん、とガラスの割れたような音の数瞬後、白い神速が黒い偽戯を打ち倒し、その胴体に致命傷を刻んでいた。
そこでクライニスの身体は空に呑まれ姿を消す。天から勝利の鐘のようなものが鳴っているが、夜一の耳には届いていない。
勝った⋯んだよな。
慣れない神経を使ったせいで手に痺れが残る。しかし、その痺れを勝利の余韻として感じ、やがて現実へと意識が転送される。
◆
「おかえり、夜一」
「ただいま」
後ろでクライニスが言い訳を並べ喚いているのを横目にカプセルから起き上がる。
すると、玲という少年が近づいてくる。
「⋯あの剣術を誰に習った?」
「えと、東雲っていう家の方から」
一同から驚きの声が上がる。
「⋯そうか」
穏やかな表情で、どこか安心したような様子で、離れていくのを見送り迅が補足を入れる。
「玲も、元東雲家の人間だ」
元?なんか因縁あったりする?面倒なことには首突っ込まないことにしてんだ。あ、既に突っ込んでるか⋯
「次は誰が行く」
「じゃあオレが行こう」
そういい挙手したのは先の戦場での強さを魅せつけたクガラであった。
「まじか」
──正直相手にしたくなかった。
クロワゼ本部内も今度目録に書いとく




