③自立への焦り6
数日間にわたる過酷なトライアンドエラーの末、私はついに完璧な「水を使わない清浄粉」を完成させた。
貴重なパウダーを、拾い集めた小さな麻袋に小分けにする。手元にあるのはわずか三袋。だが、これを金に換えることができれば、私の「自立」への第一歩となる。
問題は、三歳の幼児である私が、これをどうやってターゲットである富裕層に売り込むかだ。
両親が長時間の労働に出払っている昼間、私はアパートを抜け出し、王都の中心部へと向かった。
スラムの境界を越えると、景色は劇的に変わる。足首まで浸かる泥濘は石畳に変わり、鼻を突く下水の臭いは消え、行き交う馬車も立派なものになる。私は大通りを避け、富裕層のタウンハウスが立ち並ぶ高級住宅街の「裏通り」へと足を進めた。
この時代のタウンハウスには、道路と建物の間に錬鉄製の柵が設けられており、一段低い場所に「エリア」と呼ばれる半地下の空間が存在する。石炭を運び込むためのシューターや使用人専用の出入り口があり、メイドや料理人たちは常にこの薄暗い半地下から出入りして、館の主たちの生活を支えているのだ。
私は、ある一際大きなタウンハウスの「エリア」の階段の上から、下を覗き込んだ。
ちょうど、白いエプロンを煤で真っ黒に汚した若い下働き(スカラリーメイド)が、バケツの水を捨てに出てきたところだった。冬の寒空の下、彼女の手は強い灰汁と冷水によるアカギレで真っ赤に腫れている。
(ターゲット発見。あとは、この子供の身体を最大限に利用するだけ)
私はワントーン高い声を出し、わざと舌足らずな発音で階段の上から声をかけた。
「おねえちゃん、こんにちは!」
メイドは驚いて見上げ、薄汚れた三歳の私がぽつんと立っているのを見て目を丸くした。
「あら、迷子? スラムの子がこんなところに来ちゃ駄目よ。ご主人様に見つかったら鞭で打たれるわ」
「ううん、迷子じゃないの。おねえちゃん、お洋服が真っ黒だから、魔法のお粉を教えてあげようと思って!」
私は階段を駆け下り、メイドの前に麻袋を差し出した。
「魔法の粉? 何を言ってるの……」
「お水を使わないで、その真っ黒なスス汚れを落とすお粉だよ! 一回だけ、試してみて!」
私は強引に彼女のエプロンの端を引っ張り、そこに灰褐色のパウダーをひとつまみ振りかけた。そして、自分の小さな手でしっかりと揉み込んでから、「ポンポンって払ってみて」と促した。
メイドは半信半疑のまま、言われた通りに粉を払い落とした。
その瞬間、彼女は「えっ!?」と短い悲鳴を上げた。
先ほどまで繊維の奥までこびりついていた黒い煤と油汚れが、パウダーと一緒に完全に剥がれ落ち、純白の生地が顔を出したのだ。おまけに、鼻を近づければラベンダーとミントの爽やかな香りが漂ってくる。
「嘘……水も石鹸も使ってないのに? しかも、こすり洗いしなくていいなんて……!」
毎日、凍えるような冷たい水と強い灰汁で重い布を洗い、手をボロボロにしている彼女にとって、この粉がどれほどの「奇跡」に映るか。私の計算通りだった。
「ね、すごいでしょ? これ、特別に銅貨二枚で譲ってあげる!」
「ど、銅貨二枚!? そんなの、私のお給料じゃ……」
「じゃあ、奥様に教えてあげて? きっと奥様、このお粉があれば大事なカーテンやドレスが長持ちするって喜ぶよ。おねえちゃんも、お洗濯が楽になるし、奥様に褒められるかもしれないよ」
メイドは少し迷った後、エプロンのポケットから自分の財布を取り出し、震える手で銅貨二枚を取り出した。
「わかったわ。私が個人的に買う。もし本当に奥様のドレスの汚れが落ちたら、次はもっとたくさん買い取らせてもらうわ。……あなた、名前は?」
「クロエだよ! また数日後にここに来るね!」
私は冷たい銅貨を二枚、小さな手でしっかりと握りしめた。
初めての売上。前世で何億という金を動かした時よりも、この二枚の銅貨はずっしりと重く、私の心を強烈な達成感で満たした。
(……いける! 私の知識は、この世界でも間違いなく通用する!)
私はスキップをするような足取りで、スラムへと続く道を戻り始めた。




