⑭反撃ののろし
「……完璧よ。これだけの証拠があれば、あのギルドを跡形もなく吹き飛ばせるわ」
雨に濡れた裏帳簿のページをめくりながら、私は歓喜に震えた。
そこに記されていたのは、彼らが警察の警吏に支払った賄賂の額や、貴族たちをいかにして騙し、暴利を貪っていたかという詳細な記録だった。
私たちから奪った「白百合の清浄粉」の在庫も、別の名前のラベルを貼り付けて、自分たちの新商品として貴族に売り捌く計画であったことが記されていた。
「でもクロエ、これをどうするの? 警察に持っていっても、連中とグルなら握り潰されるだけよ」
母メアリーが不安げに尋ねる。
「警察には行かないわ。私たちが使うのは、これよ」
私は、昨日街で買ってきた一部の新聞をテーブルの上に広げた。
18世紀から19世紀の時代背景に似たこの世界では、印刷産業が空前のブームを迎えており、新聞はただのニュースにとどまらず、政治的スキャンダルや権力者への痛烈な風刺を報じることで爆発的に部数を伸ばしていた。
「ギルドの息がかかった大手の新聞社には持ち込まない。狙うのは、過激な論調で知られ、特権階級の腐敗を暴くことに飢えている『独立系』の新聞社よ。そしてもう一つは、ギルドの詐欺の被害に遭っている大貴族たちと対立する、別の貴族派閥のポスト」
私は深夜のテーブルに向かい、前世の記者の経験を総動員して、読者の怒りと好奇心を最大限に煽る扇情的な告発文を書き上げた。
『大貴族を欺く商人ギルドの腐敗! 偽装品と密輸、そして警察組織の買収の全貌』
大衆のルサンチマンに火をつけ、同時に貴族たちのプライドをズタズタに引き裂く、完璧に計算された文章だ。
「これを、裏帳簿の写しと一緒に、明日の夜明け前に複数の新聞社と貴族の屋敷のポストに匿名でねじ込むのよ」
私は書き上げた原稿を高く掲げ、泥だらけの孤児たちと、傷だらけの両親を見渡した。
「ギルドの連中は、私たちの商品を奪い、警察を使って私たちを潰した気でいるわ。でも、本当に恐ろしいのは物理的な暴力じゃない。社会の信用を完全に破壊されることよ」
私は冷たい笑みを浮かべた。
「明日、あの連中が築き上げてきた富と権力の塔が、根元から崩れ落ちる音を聞かせてあげるわ」
逆襲の準備はすべて整った。
底辺の平民と、社会から見捨てられた孤児たちが仕掛ける、権力への致命的な一撃。
その発火の瞬間が、数時間後の夜明けと共に迫っていた。




