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転生幼女の白百合商会~前世の冷徹な経営知識と魔法の清浄粉で、最底辺のスラムから王都の経済を支配します~  作者: 紅茶
第一章 スラム編

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⑬帰還と反撃

振り下ろされる用心棒の凶刃を、アーサーは手に持つ太い鉄の火かき棒で間一髪弾き返した。


鋭い金属の衝突音が暗い廊下に響き渡る。


アーサーはそのまま渾身の力で火かき棒を横に薙ぎ払い、先頭にいた男の腕を力強く打ち据えた。


男が苦悶の叫びを上げて壁に激突する。


過酷な紡績工場で、毎日十四時間以上も重い機械と格闘しながら鍛え上げられたアーサーの腕力は、歓楽街で威張り散らしているだけのならず者を圧倒する力を持っていた。


しかし、多勢に無勢であることは明白だった。


狭い廊下の奥から、さらに三人の用心棒が殺意を剥き出しにして殺到してくる。


アーサーは一歩後退し、壁に備え付けられていた明かり取りの油ランプを火かき棒で勢いよく叩き割った。


床に飛散した油に火が燃え移り、廊下は一瞬にしてオレンジ色の炎と目に染みる黒煙に包まれた。


「熱っ! 炎を消せ!」


「あの野郎、どこへ行った!?」


用心棒たちが炎と煙に怯み、視界を奪われたその僅かな隙。


アーサーは廊下の突き当たりにある採光用の窓ガラスに向かって全速力で走り出し、自らの巨体を丸めて勢いよく突進した。


ガラスが砕け散る鋭い破壊音とともに、アーサーの身体は二階の高さから冷たい雨が降り注ぐ夜の闇へと放り出された。


一方、ダスト・シュートの暗く狭い穴を滑り降りたネッドたちストリートの子供たちは、一階の裏手にある洗濯物の山の中に無事に落下していた。


彼らは素早く身を翻し、「エリア」と呼ばれる半地下の使用人専用通路へと飛び出した。


頭上の錬鉄製の柵をよじ登り、冷たい雨が容赦なく打ち付ける表の通りへと駆け抜ける。


娼館の中から怒号が聞こえ、追手の足音が外へとなだれ込んでくる気配がした。


だが、ストリートで生き抜いてきた孤児たちを、暗闇の広がる王都の裏道で捕まえることなど不可能に近い。


彼らは、地図には決して載ることのない迷路のような路地裏や、廃棄された建物の隙間を熟知していた。


汚水が川のように流れる不衛生な裏道や、身を隠すのに都合の良いスラムの廃墟を駆け抜け、警察の目も用心棒の追跡も見事に撒いてみせた。


彼らの胸に抱かれた二冊の裏帳簿は、幾重にも巻かれたボロ布によって、雨滴一つ寄せ付けることなく完全に守られていた。





王都の片隅にある、隙間風の吹き込むアパートの一室。


私と母メアリーは、ランタンの灯りを極限まで落とし、息を殺して彼らの帰りを待っていた。窓を打つ雨の音が、まるで死神の足音のように不安を煽り立てる。


どれほどの時間が経っただろうか。突然、玄関の重い木の扉が乱暴に開かれた。


「クロエ……! おばさん……!」


息を極限まで切らせ、全身を泥水で濡らしたネッドが、部屋の中に転がり込んできた。


背後には他の子供たちも続いている。


彼らは外套の奥深くに隠し持っていたボロ布の包みを、震える手でテーブルの上へと広げた。


そこには、探し求めていたギルドの裏帳簿と、偽造品のラベルの束が確かにあった。


「ありがとう、ネッド! 本当に、よくやってくれたわ!」


私が歓喜の声を上げるよりも早く、母メアリーの悲痛な声が部屋に響いた。


「ネッド、アーサーは!? 主人は一緒じゃないの!?」


ネッドは泥だらけの顔を歪め、悔しそうに唇を噛み締めた。


「おじさんが、俺たちを逃がすために一人で廊下に残ったんだ。用心棒たちが迫ってきてて……おじさんは、自分の体が大きくて逃げ道を通れないからって、俺たちに帳簿を託して……」


その言葉に、母メアリーは完全に血の気を失い、その場に泣き崩れた。


私の心臓も、まるで氷の刃で貫かれたように冷たく凍りついた。


私の立てた計画が、私の指示が、再びお父さんを死地に追いやったのか。


もしお父さんが殺されてしまったら、ギルドを打ち倒したところで、私たちが幸せになる未来は永遠に失われてしまう。


絶望が首をもたげ、視界が涙で歪みかけた、まさにその時だった。


軋む階段を上る、重く引きずるような足音が聞こえた。


開いたままになっていた扉の枠に、よろめくようにしてもたれかかった巨大な影。


「……勝手に、俺を殺すなよ」


全身泥とガラスの破片まみれになり、顔や腕の深い切り傷から血を流しながらも、決して屈することのない力強い笑顔を浮かべた父、アーサーだった。


二階の窓からゴミの山の上に落下し、全身を強打しながらも、雨の路地裏に紛れて決死の逃避行を遂げてきたのだ。


「お父さん……っ!」


「あなた!」


私と母は悲鳴のような声を上げ、血と泥にまみれた父の巨体にすがりついた。


ネッドたちも泣き顔を一瞬にして輝かせ、父の腰に抱きつく。


「約束通り……俺たち家族の未来を掴み取って、生きて帰ってきたぞ」


父は痛む腕を庇いながら、私たちをその広くて温かい胸の中に力強く抱きしめた。


家族の無事を確かめ合い、傷の手当てを終えた後。


私はテーブルの上に置かれた裏帳簿の重いページを開いた。


そこには、ギルドが王都の治安維持局の警吏に支払った賄賂の額や、大貴族たちを欺き、粗悪品を高級品と偽って暴利を貪っていた詳細な記録が、一ペニーの狂いもなく克明に記されていた。


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