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中世異世界で企業する  作者: 紅茶


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⑤ 家内制手工業の開始

「親とは子供を搾取する存在である」という前世からの強固な前提が、彼らの無償の愛を前にして音を立てて崩れ去った。


子供一人の力では、この暴力と搾取が支配する野蛮な資本主義の底辺で生き抜くことはできない。


私には、私の頭脳が弾き出した戦略を現実世界で実行するための「大人の隠れ蓑」と、信頼できる労働力が必要だった。


そして何より、私の胸の奥底には、この愚直なまでに優しい両親を貧困から救い出し、絶対に幸せにしたいという、前世ではあり得なかった強烈な感情が芽生えていた。


家に帰り、泥と血を洗い落とした後、私はガタガタと軋む木のテーブルの上に、メイドから稼いだ二枚の銅貨と、余っていた「清浄粉」を並べてみせた。


「お父さん、お母さん。私のお話を聞いて。このお粉は、水を使わずに布の汚れを落とす魔法のお薬なの」


私は、三歳の子供が思いついた「ごっこ遊び」の延長を装いつつ、この粉がいかに富裕層の館で需要があるかを必死に説明した。当時のロンドンに似たこの王都は、工業化による石炭の煤煙で空が覆われ、富裕層の家の中でさえ「常に煤と泥の層」がこびりついているような不潔な環境だった。


水洗いすれば傷んでしまう重いベルベットのカーテンやドレスの汚れを、水を使わずに落とし、しかも悪臭を消し去るこの粉は、メイドたちにとって喉から手が出るほど欲しい奇跡の品になるはずだ、と。


「だから、お父さんとお母さんにも、私のお粉作りを手伝ってほしいの」


私の提案を聞いた父アーサーと母メアリーは、最初は目を丸くして顔を見合わせていた。


やがて、父は傷だらけの顔をほころばせ、大きな手で私の頭を優しく撫でた。


「あははは! クロエは本当に賢いなぁ。お母さんの洗濯の仕事を見て、そんな魔法の粉を考えついたのか。偉いぞ、私たちの小さな妖精さん」


「ええ、本当に。クロエが一生懸命作ってくれたお粉だもの。お母さんたちも、クロエのお店屋さんのお手伝いをするわね」


彼らは、私が前世の記憶を持つ異端の存在であり、これが緻密に計算されたビジネスモデルであることなど微塵も信じていなかった。


ただの賢い子供の、少し大げさな「遊び」に付き合ってくれているだけだった。


だが、それで構わなかった。私が彼らの労働力と大人の立場を「利用」し、彼らが私という子供の提案を愛情ゆえに「受け入れる」


そのすれ違った思惑のまま、私たち家族の「家内制手工業」は、カビ臭いスラムのアパートの一室で静かに幕を開けた。


翌日から、我が家の夜は「工場」へと姿を変えた。


1日14時間にも及ぶ過酷な工場労働を終えて帰ってきた父は、本来なら泥のように眠りたいはずの身体に鞭を打ち、私が川辺から拾ってきた粘土を石で細かく砕く重労働を引き受けてくれた。


「よし、クロエ店長。これくらい細かく砕けばいいかい?」


煤と油にまみれた顔のまま、父は楽しそうに笑いかけてくる。


母メアリーもまた、一日中他人の洗濯物を洗ってひび割れた手で、乾燥させたハーブをすり潰し、暖炉の灰と粘土を正確な比率で混ぜ合わせる作業を文句一つ言わずにこなしてくれた。


当時の労働者階級の女性は、工場や家事使用人として働くだけでなく、家に帰ってからも衣服の仕上げなどの「内職ホームベースド・ワーク」を行って家計を支えるのが一般的であったが、母はそれを「労働」ではなく「娘との大切な遊びの時間」として楽しんでいるようだった。


やがて、完成した清浄粉を、母が富裕層の館の裏口へ出向くついでに売り歩くようになった。


結果は、火を見るより明らかだった。


最初は「子供の泥遊びの産物」と半信半疑だったメイドたちも、一度その圧倒的な洗浄力と消臭効果を目の当たりにすると、目の色を変えて追加注文を求めてきた。


口コミはあっという間に富裕層の使用人たちの間で広がり、「白百合の粉」と名付けた私たちの商品は、生産が全く追いつかないほどの爆発的な売れ行きを見せ始めた。


スラムのアパートのテーブルの上には、使い走りで得られるような薄汚れた銅貨ではなく、輝く銀貨が積み上がるようになっていった。

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