表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/38

姉から妹へ

 画面がパッと明るくなり、スマートフォンのインカメラに彼女の姿が映し出された。


「あ……映ってるかな。声、聞こえますか?」


 画面を覗き込み、目を細める。

 

 シホさんは、コメントが流れるのを数秒待つ。


「あ、こんばんは。よかった、聞こえてるみたいですね。……お久しぶりです、夏目シホです」


 飾らない白い壁を背に、薄手のカーディガンを羽織り、髪を簡単にまとめただけの姿で座っていた。


「半年ぶりですかね。久しぶりに配信やってみようと思って。なんか急に思い立って」


 カメラに向かって、少しだけ照れたように笑う。


「最近どうしてたかって言うと、特に何もなくて。仕事して、ご飯食べて、寝て。そんな感じです。あ、でも、最近は散歩するのがちょっとした習慣になってきて。近所の川沿いを夕方に歩いてますね。人が少なくて静かで、穴場なんですよ」


「あと、料理もよくするようになりました。昨日はポトフを作ったんですけど、じゃがいもが思ったよりほくほくに仕上がって。ちょっと嬉しくなっちゃいました」


 彼女の口元がわずかに緩む。


「そんな感じで、元気です。平穏な日々を過ごしてます」




 言い終えた後、わずかに沈黙する。

 少しだけ時間をおいて、すぅ、と息を吸い込んだ。


 そして、口を開く。


「最近、家にいることが増えたんで、よく動画とか配信を見るようになったんです。それでね、最近すごく好きな推し、っていうんですかね。そういう方ができたんです。姫川ユリナさんって言うんですけど、知ってますか? Vtuberの方なんですけど、デビュー当初からずっと見ていて」


 少し声が明るくなった。


「ゲームが上手いのも尊敬するし、配信中も堂々としてて。クールで落ち着いてる印象なんですけど、たまにすごく抜けてるところがあるんです。こないだのコラボ配信なんか、堂々と指示ミスして、コラボ相手の人を死なせちゃったりして。それ見て、思わず笑っちゃいました」


「私は、なんかそういうところ見てて、可愛いなと思っていて。不意に見せるギャップのある一面が、私は大好きで」


 姫川ユリナについて話していた。しかし、その言葉は霧島さん、妹自身のことを言っているようにも聞こえた。


「あと、声も好きで。聞いていると落ち着くんですよね。長い配信でも、最後まで聞いていられるというか。声を聴いているとなぜか元気がでてきて、この人の声をずっと聴いていたいと思うんです」


 ふふっと笑ってから、一呼吸をおいて続ける。


「……なんか、そういうところ見てたら、自分の妹のことを思い出しちゃって」


 声のトーンが僅かに落ちる。


「私、妹がいるんです。今、ちょっとうまくいってなくて。喧嘩したまま、しばらく会えていないんです」


元気のなさそうな雰囲気で、シホさんは言う。


「喧嘩したのは、妹の仕事のことでちょっと問題が起きて、口論になっちゃったからなんですけど」


「言いすぎちゃったなって、すごく後悔してます」


その言葉には、深い悔恨が滲んでいた。


そんな喧嘩中の妹なんですけどね、とシホさんは切り出す。


「すごくいい子なんです。すごく頑張り屋な子なんですよ。しんどくても平気な顔をして、文句も言わずに一生懸命に頑張ってる。あと、遠慮しいで、人を頼るのが下手なんです。昔からそうで。だから私、ずっと心配で、つい口を出しすぎちゃって。よくうざがられてました」


 少し笑った。困ったような、でも温かい笑い方だった。


「妹からしたら、私みたいな姉は過干渉で苦手なのかもしれないです」


 でもね、とシホは言う。


「お姉ちゃんだから、やっぱり心配しちゃうんです」


「連絡が取れなくても、会えなくても。今頃ちゃんとご飯食べてるかな、元気にしてるかなって、毎日思ってるんです」

 

 自分で言ってて不思議ですね、なんだかお母さんみたい。そう言って笑った。


「絶賛喧嘩中なんですけど、喧嘩したくらいで、大事に思う気持ちは変わらないんです。私にとってのお姉ちゃんって、そういうものなんです」


 その言葉は、力強かった。安心するような、信じさせてくれるような、そんな声。


「最近も何度かメッセージ送ってるんですけど、ずっと既読がつかなくて。読んでくれてるか、受け取ってくれているのかもわからないんですけど」


 机の上で手の指を組んで、手のひらを擦り合わせる。


「もし、この配信をどこかで聞いてくれてたら、伝えたくて」


その顔は、妹に見せる姉の表情とでもいうのか、穏やかで柔らかい印象だった。


「そりゃあ、喧嘩した時は、ちょっとムカッとしたよ。けど、今は別に怒ってない。だから、謝りづらいなとか、喧嘩のことをを気にして、連絡しづらくなってるなら、そんなの全然気にしなくていいからね。私も考えなしで迷惑かけたんだから、お互い様」


 声が、少しだけ波打った。


「ずっと、大好きだから。あなたのいいところも、ちょっとどうかなって思うところも。全部含めて、大好きだから」


 少しの間、黙った。目元を指でそっと拭った。


「いつでも、返事待ってるからね」


 顔を上げた彼女の目元はほんのりと赤かったが、その表情は穏やかだった。


「……あーあ、なんか急に湿っぽい話しちゃってごめんなさい。見てくれた皆さんもありがとうございました」


 ふふっと笑う。


「でも、なんかすっきりしました」


 最後にもう一度だけカメラのレンズを覗き込んだ。


「それじゃあ、またいつか」


 小さく手を振ったシホさんを映しながら、配信は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ