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祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


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第三百五十四話 秋のヤマメを喰らう

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵《いとうすけたか》。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久《しまづとよひさ》。島津氏家臣で、島津家久《しまづいえひさ》の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

釣り帰りの夕暮れ。


館の台所から、香ばしい魚の焼ける匂いが漂っていた。


祐兵(すけたか)と豊久(とよひさ)が二人と二匹で山へ出かけ


渓流で釣り上げたヤマメである。


料理人は、まずヤマメの鱗と内臓を取り除き、清らかな水で丁寧に洗った。


それから身に薄く塩を振り、しばらく置いて味をなじませていた。


炭火の上には串に刺したヤマメが並んでいる。


じっくりと焼かれるにつれ、皮から余分な水気が抜け


表面に薄く焼き色がついていく。


脂が炭に落ちるたび、じゅっと小さな音がした。


「これは、よい匂いですな」


台所を訪れた豊久(とよひさ)が、思わず声を漏らした。


「山で釣った時から、今夜の夕餉を楽しみにしていた。こうして焼ける様子を見ると、ますます腹が減るな」


祐兵(すけたか)も焼き台を覗き込んだ。


「もう少しでございます。皮目が香ばしく焼けたら、食べ頃です」


料理番が串を回し、焼き加減を確かめた。


小春(こはる)と黒猫も、二人の足元にやってきた。


焼き魚の匂いに気づいたのか、小春(こはる)は鼻をひくひくさせている。


黒猫も隣に座り、焼き台の方をじっと見つめていた。


「お前たちにも、あとで少し分けてやろう。熱いから、冷ましてからだぞ」


祐兵(すけたか)がそう言うと、小春は嬉しそうに鳴いた。


やがて、ヤマメの塩焼きが出来上がった。


夕餉(ゆうげ)の膳には、焼きたてのヤマメが一人一尾ずつ並べられた。


もう一品は、ヤマメの骨や身から取った出汁を使った汁物である。


根菜も添えられ、秋らしい膳となった。


二人は箸を取り、まず焼き魚に手を伸ばした。


「では、いただこう」


祐兵(すけたか)はヤマメの身を箸でほぐした。


皮はぱりりと香ばしく、身からは湯気が立ち上っている。


口に運ぶと、淡白ながらも川魚ならではの旨味が広がった。


塩加減もちょうどよく、噛むほどにほのかな甘みが感じられる。


「うむ。これは美味い」


祐兵(すけたか)の顔に満足そうな笑みが浮かんだ。


「身が締まっておりますな。川の流れの中で育った魚だからでしょうか」


豊久(とよひさ)も骨に気をつけながら、丁寧に身を味わった。


「そうかもしれない。水が冷たく澄んでいたからな。あの渓流の景色まで思い出す」


「確かに。釣り上げた時の手応えも、なかなかのものでした」


「豊久殿の釣った大きなヤマメも見事だった。あれは食べ応えがある」


「祐兵殿の最初の一匹も、なかなかのものでしたぞ」


二人は釣り場での出来事を思い返しながら、ヤマメを味わった。


続いて汁物を口にする。


焼き魚とは違い、こちらは柔らかな味わいだった。


ヤマメの出汁が根菜に染み込み、温かな汁が身体に広がる。


「こちらもよいな。焼き物とは違った旨味がある」


「冷えてくる十月の夜には、こうした汁物がありがたいですな」


「山の幸を、こうして余すところなくいただけるのは嬉しいことだ」


膳のそばでは、小春(こはる)と黒猫が並んで待っていた。


料理番が取り分けておいたヤマメの身を


骨が残らないよう丁寧に確かめ、十分に冷ましてから二匹の小皿に分ける。


「ほら、小春(こはる)殿。黒猫も一緒に食べるとよい」


二匹は並んで皿に顔を寄せた。


小春(こはる)はひと口食べると、すぐにもうひと口を求めるように鳴いた。


黒猫も静かに身を食べている。


「どうやら、二匹も気に入ったようですな」


「山で魚を眺めていた時から、食べてみたかったのだろう」


二人は顔を見合わせて笑った。


食事が進むにつれ、膳の上のヤマメも少しずつ姿を消していった。


最後に残った汁を飲み干すと、豊久(とよひさ)は満足そうに息をついた。


「いやあ、よい夕餉でした。自分たちで釣った魚を食べるというのは、格別ですな」


「釣る楽しみもあれば、食べる楽しみもある。次は別の魚を狙ってみるのもよいな」


「また山へ参りましょう。紅葉が深まる頃なら、景色もさらに美しくなっているでしょう」


「そうだな。小春(こはる)殿と黒猫も、また連れていこう」


小春(こはる)は二人の声に反応して顔を上げた。


黒猫も隣で尻尾を揺らしている。


夕餉の後、二人は庭に出た。


十月の夜風は少し冷たく、虫の声も秋の深まりを告げている。


満ち足りた腹を抱え、二人は縁側に腰を下ろした。


小春(こはる)と黒猫も


いつものように並んで二人のそばに寄り添っている。


山で釣ったヤマメを味わい、秋の夜を静かに過ごす。


何気ない一日ではあったが


自分たちで得た恵みを皆で分かち合う、心豊かな夕餉となった。

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