第三百五十一話 寺の落ち葉
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
朝。
館の庭には、秋の風が吹いていた。
伊東祐兵は縁側から外を眺めていた。
昨日の朝は鍛錬をし、その後に栗ごはんを食べた。
体調はすっかり戻り、今朝も体は軽い。
隣では島津豊久が庭を見ていた。
小春と黒猫は、二人の足元で並んでいる。
そこへ、近所の寺から使いの者がやってきた。
「おはようございます」
「おはよう。何かあったのか」
祐兵が尋ねる。
「実は、境内に落ち葉がたくさん溜まりまして。掃いているのですが、なかなか終わらないのです」
「落ち葉集めか」
「はい。もしお時間がありましたら、少し手を貸していただけないでしょうか」
祐兵は豊久を見る。
豊久もすぐに頷いた。
「もちろん、お手伝いしましょう」
「そうだな。今日は鍛錬の代わりに、落ち葉を集めるとするか」
二人と二匹は、寺へ向かった。
寺は館から歩いてすぐのところにある。
境内へ入ると、地面には色づいた葉が一面に落ちていた。
黄色い葉。
赤茶色の葉。
まだ緑色を残した葉。
風が吹くたび、木の枝から新しい葉がひらひらと落ちてくる。
「これはなかなかの量ですな」
豊久が境内を見渡した。
「確かに多いな」
祐兵も頷いた。
寺の者から竹箒を借り、二人は落ち葉を集め始めた。
祐兵が竹箒を動かす。
さらさら、さらさらと、乾いた葉が地面を滑っていく。
豊久も少し離れた場所から掃き始める。
二人が掃くたびに、落ち葉が少しずつ山になっていく。
小春と黒猫は、そんな二人の周りを歩き回っていた。
小春が落ち葉の山に近づく。
黒猫もその後をついていく。
小春が葉を前足で触ると、乾いた葉がかさりと音を立てた。
黒猫も同じように前足を伸ばす。
「二匹とも、遊び始めたな」
祐兵が笑う。
豊久も笑った。
「落ち葉が珍しいのでしょうな」
二匹は落ち葉の間を歩き回り、時には葉の下へ顔を突っ込んだ。
しかし、祐兵たちが大きな山を作ると
その上に乗ろうとはせず、二人の近くで見ている。
「小春殿、黒猫殿。そこにいると掃けませんぞ」
豊久が声をかける。
小春は顔を上げた。
黒猫も豊久を見る。
そして二匹そろって少し横へ移動した。
「分かっているようですな」
「賢いものだ」
祐兵は笑いながら、再び竹箒を動かした。
しばらくすると、境内のあちこちに落ち葉の山ができていった。
寺の者も別の場所から落ち葉を集めてくる。
やがて大きな一つの山になった。
「これでだいぶ綺麗になりましたな」
豊久が額の汗を拭う。
「まだ少し残っている」
「では、もう一働きしましょう」
二人は残った落ち葉を集めていった。
本堂へ続く道。
木の根元。
石段の脇。
普段は目につかない場所まで、丁寧に掃いていく。
小春と黒猫も二人の後をついて歩く。
時折、落ち葉を踏んで遊びながらも、二匹はずっと一緒だった。
最後に石段の脇に残っていた葉を集める。
祐兵が竹箒を動かすと、落ち葉が一か所へ集まった。
「これでよいだろう」
豊久が周囲を見渡す。
先ほどまで一面に広がっていた落ち葉がなくなり、境内がすっきりしている。
寺の者も嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございました。お二人のおかげで、すっかり綺麗になりました」
「礼を言うほどのことではない。近所なのだから、困った時はお互い様だ」
祐兵が答える。
「それに、よい運動になりました」
豊久が笑う。
寺の者も笑った。
二人は境内の端に座り、しばらく休む。
秋の風が境内を吹き抜ける。
先ほど集めた落ち葉が、風に少しだけ揺れた。
小春と黒猫は二人の足元に寄り添っている。
「落ち葉を集めるだけでも、なかなか体を使いますな」
「そうだな。鍛錬とは違うが、よい運動になった」
祐兵は境内を見渡した。
掃き清められた石畳。
木漏れ日。
秋の木々。
静かな寺の境内。
「こうして人の役に立てるのは、気持ちがよいものだな」
「ええ」
豊久も頷いた。
しばらくして、二人と二匹は寺を後にした。
帰り道、小春と黒猫は落ち葉の上を歩いている。
かさり、かさりと、小さな足音が続く。
祐兵はその音を聞きながら笑った。
「秋らしい音だな」
「ですな」
館へ戻る道にも、落ち葉が少しずつ増えていた。
季節が進んでいる。
そんなことを感じながら、二人と二匹はゆっくりと歩いていった。
この日、寺の境内は綺麗になった。
そして二人と二匹の心にも、穏やかな秋の一日が残った。




