↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
351/360

第三百四十九話 秋朝の鍛錬

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵《いとうすけたか》。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久《しまづとよひさ》。島津氏家臣で、島津家久《しまづいえひさ》の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

秋の朝。


館の庭には、ひんやりとした秋の空気が満ちていた。


東の空から朝日が昇り始め、庭の草には細かな露が残っている。


伊東祐兵《いとう すけたか》は縁側に立ち、ゆっくりと庭を見渡した。


少し前まで体調を崩していたとは思えないほど、体は軽い。


昨日は山へ栗を拾いに行き、城下町まで歩いた時と同じように


疲れもほとんど残っていなかった。


「今日は、もう少し動いてみるか」


祐兵《すけたか》が言うと


庭に出ていた島津豊久《しまづ とよひさ》が振り返った。


「鍛錬ですか」


「ああ。薬師(くすし)殿からも、軽いものならよいと言われている。そろそろ普段の鍛錬へ戻していきたい」


「それなら、無理のない程度にいたしましょう」


「そうしよう」


二人が木刀を手に取る。


小春《こはる》と黒猫も庭へ出てきた。


二匹はいつものように一緒に行動し、庭の端に並んで座った。


「小春《こはる》殿も黒猫も、見物ですな」


豊久《とよひさ》が笑う。


小春《こはる》は返事をするように小さく鳴いた。


祐兵《すけたか》も笑い、木刀を構えた。


まずは体をほぐす。


肩を回し、腕を伸ばし、足をゆっくり動かす。


以前ならすぐに木刀を振っていたが


今日は体の様子を確かめながら、丁寧に準備をする。


「体はどうですか」


「問題ない。腹も痛くない」


「それならよいですな」


豊久《とよひさ》も木刀を構える。


二人は向かい合った。


朝の庭に、木刀が風を切る音が響く。


祐兵《すけたか》はゆっくりと振り下ろす。


一度。


二度。


三度。


無理に力を入れず、動きを確かめるように振っていく。


豊久《とよひさ》も同じように木刀を振る。


「だいぶ戻ってきましたな」


「そうだな。体が以前の動きを思い出してきたようだ」


「ですが、焦ってはいけませんぞ」


「ああ。分かっている」


祐兵《すけたか》は笑った。


小春《こはる》と黒猫は二人の動きを眺めている。


小春《こはる》が少し前へ出ると、黒猫もその隣へ移動する。


二匹は並んだまま、静かに鍛錬を見守っていた。


しばらく木刀を振ったところで、祐兵《すけたか》は一度手を止めた。


「今日はここまでにしておこう」


豊久《とよひさ》が頷く。


「ちょうどよい頃合いですな」


二人は木刀を置いた。


祐兵《すけたか》は深く息を吐く。


少し汗ばんではいるが、苦しさはない。


腹の調子にも問題はなかった。


「うむ。これなら大丈夫そうだ」


「顔色もよいですな」


「ありがとう」


祐兵《すけたか》は庭を見渡した。


朝の光が庭を照らしている。


昨日拾った栗が置かれている縁側のそばには


小春《こはる》と黒猫が並んで座っていた。


「昨日は栗拾いで、今日は鍛錬か」


「秋はやることが多いですな」


「そうだな」


二人は笑った。


その後、二人は庭の木陰で少し休んだ。


豊久《とよひさ》が水を用意し、祐兵《すけたか》はゆっくり喉を潤す。


小春《こはる》と黒猫も二人の足元で休んでいた。


風が吹くたび、木々の葉がさらさらと音を立てる。


祐兵《すけたか》はその音を聞きながら、静かに目を細めた。


「こうして朝に鍛錬ができるのは、やはりよいものだな」


「ええ。祐兵《すけたか》殿が元気になられて、何よりです」


「心配をかけたな」


「もうそれはよいのです。これから少しずつ戻していけばよいでしょう」


「そうだな」


小春《こはる》が祐兵《すけたか》の足元へ近づいてきた。


黒猫もその隣についてくる。


祐兵《すけたか》は二匹を見下ろし、笑った。


「二匹とも、鍛錬が終わったのが分かったらしい」


小春《こはる》が足元で丸くなり、黒猫もその隣に座る。


秋の朝は静かだった。


朝露に濡れた草。


澄んだ空気。


木々の葉を揺らす風。


そして、久しぶりにしっかりと体を動かした心地よい疲れ。


祐兵《すけたか》は、ゆっくりと空を見上げた。


「今日もよい一日になりそうだな」


豊久《とよひさ》も空を見上げる。


「そうですな」


二人と二匹は、穏やかな秋の朝を静かに過ごしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。