第三百三十一話 山中の脅威
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
翌朝。
伊東祐兵と島津豊久は
小春と黒猫を連れて
山へ入った。
「かなり深い山ですな」
豊久が辺りを見回す。
木々が生い茂り
人の歩いた跡もほとんどない。
「薬師殿の話では、この先だそうです」
祐兵が答える。
二人は慎重に進んでいく。
小春は
豊久に抱かれている。
黒猫は
その後ろを歩いていた。
しばらく進むと
豊久が立ち止まった。
「……何かいます」
豊久が
山の奥を見つめる。
木々が揺れている。
「風ではありませんな」
祐兵も
身構えた。
次の瞬間。
木々の間から
大きな影が現れた。
「これは……」
豊久が息を呑む。
現れたのは
巨大な猪だった。
大きな牙。
太い脚。
そして
全身を覆う黒々とした毛。
二人は
その姿を見た瞬間に気づいた。
「まさか……」
祐兵が呟く。
豊久も
猪を見つめている。
「以前の……」
かつて山籠りをしていた頃。
二人が山中で激しい戦いを繰り広げた
あの大猪だった。
「生きていたのですな」
豊久が言う。
大猪は
二人を見つめている。
忘れてはいない。
その目には
明らかな警戒があった。
「豊久殿」
「分かっております」
豊久が
ゆっくりと身構える。
祐兵も
小春を後ろへ下げる。
黒猫も
木の陰へ逃げ込んだ。
大猪が
低く唸った。
「小春殿には近づけさせん」
祐兵が言う。
「ええ」
豊久が頷く。
次の瞬間。
大猪が
地面を蹴った。
「来ますぞ!」
豊久が叫ぶ。
巨大な身体が
二人へ向かって突進してくる。
豊久が横へ飛ぶ。
大猪が地面をえぐりながら
その脇を通り過ぎた。
「相変わらず、凄まじい力ですな!」
豊久が叫ぶ。
祐兵も
大猪の動きを見ながら構える。
「以前よりも、さらに大きくなったように見えるな」
「冗談を言っている場合ではありませんぞ!」
豊久が大声をあげる。
大猪が再び向きを変えた。
二人は左右に分かれる。
しかし
大猪は素早く向きを変え
今度は祐兵へ突進した。
「祐兵殿!」
豊久が叫ぶ。
祐兵は
間一髪で身をかわした。
大猪の牙が
木の幹を激しく削った。
「危ないところだ」
祐兵が息を整える。
「この猪、以前より手強くなっておりますな」
豊久が呟く。
大猪は二人を睨みながら
再び地面を蹴った。
「来ます!」
二人は同時に身構える。
山中に
大猪の足音が響く。
秘湯の湯気が
白く立ち上っている。
その向こうから迫る巨大な獣を前に
二人は再び激しい戦いへ
身を投じることとなった。
果たして
二人は大猪を退け
小春を秘湯へ
連れて行くことができるのか。
山深い秘湯を舞台に
かつての強敵との戦いが
再び始まろうとしていた。




