↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
332/361

第三百二十九話 川瀬の落鮎

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵《いとうすけたか》。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久《しまづとよひさ》。島津氏家臣で、島津家久《しまづいえひさ》の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

九月のある日の朝。


空には薄い雲が浮かび


川面には朝の光が揺れていた。


伊東祐兵《いとう すけたか》と島津豊久《しまづ とよひさ》は


川辺へ向かって歩いていた。


小春《こはる》と黒猫も


二人の後ろをついてきている。


「今日は川へ参るのですな」


豊久《とよひさ》が言う。


「ああ」


祐兵《すけたか》が頷く。


「鮎が川を下る頃だそうだ」


「落鮎ですか」


「そうだ」


二人は川辺へ着くと


静かに流れる川を眺めた。


夏の頃よりも


水の流れはどこか冷たく感じられる。


岸辺の草も


秋の風に揺れていた。


「ここなら釣れそうですな」


豊久《とよひさ》が川を覗き込む。


「焦ってはいけませんよ」


「分かっております」


そう言いながらも


豊久《とよひさ》は楽しそうだった。


二人は川辺に腰を下ろし


釣りの支度を始めた。


小春《こはる》は少し離れたところに座り


黒猫は草むらの中から川を眺めている。


やがて


二人は釣り糸を川へ垂らした。


川の流れる音だけが


静かに聞こえてくる。


豊久《とよひさ》は


じっと水面を見つめていた。


祐兵《すけたか》も


黙って糸の先を見ている。


しばらくすると


豊久《とよひさ》の釣り糸が


わずかに揺れた。


「おや」


豊久《とよひさ》が声を上げる。


「祐兵《すけたか》殿」


「どうしました」


「今、何か動きましたぞ」


祐兵《すけたか》が


豊久《とよひさ》の糸を見る。


「もう少し待とう」


「分かりました」


豊久《とよひさ》は


再び川面を見つめる。


すると


今度ははっきりと糸が引かれた。


「今だ!」


豊久《とよひさ》が竿を引く。


水面が大きく揺れた。


銀色の魚が


水の中で身を翻した。


「掛かりましたぞ!」


豊久《とよひさ》が嬉しそうに叫ぶ。


魚は懸命に逃れようとする。


豊久《とよひさ》も


力を入れすぎないように竿を操った。


やがて魚が岸へ近づいてくる。


祐兵《すけたか》も手を伸ばした。


「もう少しです」


「はい!」


豊久《とよひさ》が竿を上げる。


水から上がったのは


一匹の鮎だった。


銀色の身が朝日に輝いている。


「見事ですな」


祐兵《すけたか》が笑う。


「これは嬉しい」


豊久《とよひさ》も笑った。


その声を聞いたのか


小春《こはる》がこちらへ近づいてくる。


黒猫も草むらから出てきた。


二匹とも


鮎をじっと見つめている。


「二匹とも魚が気になるようですな」


豊久《とよひさ》が笑う。


小春《こはる》が


鮎の匂いを嗅ごうと近づく。


黒猫も少し離れたところから


じっと眺めている。


「まだ食べてはいけませんよ」


祐兵《すけたか》が言う。


小春《こはる》は


祐兵《すけたか》を見上げた。


「にゃあ」


「分かってくれたようです」


豊久《とよひさ》が笑う。


二人は再び釣りを始めた。


今度は祐兵《すけたか》の糸が動いた。


「祐兵《すけたか》殿」


「はい」


「今度はそちらですぞ」


「そのようですね」


祐兵《すけたか》が竿を上げる。


すると


こちらにも鮎が掛かっていた。


「お見事」


豊久《とよひさ》が声を上げる。


「ありがとうございます」


祐兵《すけたか》が笑う。


二人はその後も


川辺で釣りを続けた。


何匹かの鮎が釣れると


二人は満足して竿を置いた。


「これだけあれば十分でしょう」


祐兵《すけたか》が言う。


「ええ」


豊久《とよひさ》が頷く。


「今夜の食卓が楽しみですな」


「焼いて食べるとよいでしょう」


「それは楽しみです」


豊久《とよひさ》が


釣った鮎を眺める。


小春《こはる》と黒猫も


その周りを歩いている。


「二匹にも少し分けてやりましょう」


「そうしましょう」


祐兵《すけたか》が頷く。


帰り支度を終えると


二人は川を振り返った。


朝の川は


変わらぬ流れを見せている。


「良い川ですな」


豊久《とよひさ》が言う。


「ああ」


祐兵《すけたか》が頷く。


「また来るとしよう」


「次はもっと釣りますぞ」


豊久《とよひさ》が笑う。


小春《こはる》と黒猫も


二人の後を追って歩き始めた。


秋の風が川面を渡る。


川を下る鮎の姿を見送りながら


二人は城下へ戻っていった。


その日の食卓には


朝の川で釣った鮎が並んだ。


二人と二匹にとって


川辺で過ごした穏やかな朝は


秋の一日を彩る


小さな楽しみとなったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。