↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
327/361

第三百二十四話 秋雨の館

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵《いとうすけたか》。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久《しまづとよひさ》。島津氏家臣で、島津家久《しまづいえひさ》の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

九月の昼下がり。


朝は穏やかに晴れていた空が


いつの間にか厚い雲に覆われていた。


風が強くなり


庭の木々の枝が大きく揺れている。


「急に空が暗くなりましたな」


豊久《とよひさ》が縁側から空を見上げる。


「ああ」


祐兵《すけたか》も空を眺めた。


遠くで低い雷鳴が響いた。


ごろごろ……。


小春《こはる》が耳をぴくりと動かす。


「にゃあ……」


「小春《こはる》殿も気づきましたか」


豊久《とよひさ》が小春《こはる》を抱き上げる。


その直後だった。


ぽつり。


庭の土に


大きな雨粒が落ちた。


ぽつ、ぽつ、ぽつ――。


「これは降りそうですな」


豊久《とよひさ》が言った途端、


ざああああっ――!


激しい雨が一気に降り始めた。


屋根を叩く雨音が


館いっぱいに響き渡る。


庭は瞬く間に濡れ


細い水の流れがあちらこちらにできていく。


「これは大雨ですな」


「うむ。しばらくは外へ出られそうにない」


祐兵《すけたか》は笑った。


小春《こはる》は豊久《とよひさ》の腕の中で


じっと庭を見つめている。


少し離れたところでは


黒猫も雨を避けるように軒下へ入り込んでいた。


「黒猫も戻ってきましたな」


「雨宿りだろう」


二匹の猫が並んで座り


激しく降る雨を眺めている。


豊久《とよひさ》はその様子を見て


ふっと笑った。


「今日は皆で館に籠もる日ですな」


「ああ。そういう日があってもよい」


祐兵《すけたか》は縁側に腰を下ろした。


雨はさらに激しくなる。


庭の桔梗も


雨に打たれて大きく揺れている。


「せっかく咲いた桔梗が心配ですな」


豊久《とよひさ》が庭を見る。


「強い雨だが、根付いたばかりの花ではない」


祐兵《すけたか》は穏やかに答えた。


「きっと大丈夫だ」


「そうですな」


豊久《とよひさ》も頷いた。


やがて侍女が麦湯を運んできた。


二人は温かな麦湯を手に取り


雨音を聞きながらゆっくりと飲む。


「こうして雨を眺めているのも


なかなかよいものですな」


「普段は鍛錬ばかりだからな」


祐兵《すけたか》が笑う。


「たまには休むことも鍛錬のうちだ」


「なるほど」


豊久《とよひさ》は感心したように頷いた。


その横で


小春《こはる》が丸くなっている。


黒猫もその隣で身体を丸めた。


激しい雨の音。


時折響く雷鳴。


それでも館の中は穏やかだった。


二人と二匹は


雨が過ぎるのを静かに待っていた。


やがて夕暮れが近づく頃


大雨は少しずつ弱まり始めた。


庭には大きな水溜まりができていたが


桔梗は倒れることなく


雨粒をまとって静かに立っている。


「無事でしたな」


豊久《とよひさ》が嬉しそうに言う。


「ああ」


祐兵《すけたか》は頷いた。


雨上がりの風が


館の中へ涼しく吹き込んできた。


初秋の大雨。


激しい雨に閉ざされた一日だったが


それもまた二人にとって


穏やかな思い出の一つとなるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。