第三百十九話 雨上がりの城下
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
雨が上がった翌朝。
昨夜まで降り続いていた雨は止み
城下町には清々しい空気が広がっていた。
濡れた道には朝の光が差し込み
軒先から落ちる雫がきらきらと輝いている。
伊東祐兵と島津豊久は
朝の城下町をゆっくりと歩いていた。
「雨上がりの町も、なかなか良いものですな」
豊久が周囲を見回す。
「ああ」
祐兵は頷いた。
「空気が澄んでいる」
通りには
雨の後の片付けをする町人たちの姿があった。
「おはようございます」
声を掛けられ
二人も足を止める。
「おはよう」
祐兵が笑顔で応じた。
「雨の被害はなかったか」
「はい。おかげさまで大丈夫でございます」
町人は深く頭を下げた。
「それは何よりだ」
祐兵は安心したように頷く。
二人は再び歩き始めた。
昨日の雨で洗われた木々からは
青々とした葉が顔を覗かせている。
道端では子どもたちが水たまりを避けながら
楽しそうに走っていた。
「子どもたちは雨上がりでも元気ですな」
豊久が笑う。
「我らも昔はそうだったのだろう」
祐兵が微笑む。
しばらく歩くと
魚を並べた店が見えてきた。
店先には今朝揚がった魚が並び
店主が威勢の良い声を上げている。
「今日は魚が豊富ですな」
豊久が足を止める。
「昨日の雨で川も増水しただろう。魚を獲る者も大変だったろうな」
祐兵は店先を眺めた。
その時。
「にゃあ」
聞き慣れた鳴き声が聞こえた。
二人が振り返る。
小春が通りの向こうから
こちらへ歩いてきていた。
茶トラの身体には
まだ少し湿った草の葉がついている。
「小春殿」
豊久が笑顔になる。
小春は二人の足元まで来ると
何事もなかったように尻尾を立てた。
「雨上がりだというのに、元気なものですな」
豊久が頭を撫でる。
小春は気持ちよさそうに目を細めた。
少し遅れて黒猫も姿を現した。
黒猫は二人の周りを一度歩くと
そのまま先へ進んでいく。
「どうやら、散歩の続きをするつもりらしい」
祐兵が笑う。
「我らも参りましょう」
豊久も笑った。
二人と二匹は
城下町の通りをさらに進んでいく。
やがて空には青空が広がり
夏の日差しが町を照らし始めた。
雨に濡れた屋根瓦が光を返し
軒先からは涼しい風が吹いてくる。
「こうして町を歩けるのは、やはり良いものですな」
豊久が言った。
「ああ」
祐兵は穏やかに頷いた。
「人々の暮らしをこの目で見ることも、我らの務めの一つだ」
二人は町の様子を眺めながら
ゆっくりと歩いていく。
小春と黒猫も
その後ろをついてくる。
雨上がりの城下町には
新しい一日の活気が少しずつ戻っていた。
穏やかな夏の日。
祐兵と豊久は
町の人々の笑顔を眺めながら
ゆっくりと散策を続けるのだった。




