第三百十四話 猫らと戯るる午後
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夏の午後。
空には白い雲がゆっくりと流れ
庭には穏やかな風が吹いていた。
伊東祐兵と島津豊久は
館の庭でのんびりと過ごしていた。
午前の見回りも終わり
久しぶりに急ぎの用事もない。
「今日は静かですな」
豊久が縁側へ腰を下ろした。
「ああ」
祐兵も頷く。
「こういう日も大切だ」
その時だった。
「にゃあ!」
元気な鳴き声が庭に響く。
小春が駆けてきた。
茶トラの尻尾を真っすぐ立て
まるで何かを誘うように二人の周りを歩く。
「どうした、小春殿」
豊久が声を掛ける。
小春は返事をするように鳴くと
庭へ飛び降りた。
「遊びたいのでしょうか」
「そう見えるな」
祐兵が微笑む。
そこへ黒猫も現れた。
黒猫は落ち着いた様子だが
どこか興味深そうにこちらを見ている。
豊久は庭に落ちていた細い草を拾った。
「小春殿、参りますぞ」
草をゆっくり動かす。
すると小春の目が輝いた。
「にゃっ!」
勢いよく飛びつく。
しかし草はするりと逃げる。
「おお」
豊久が笑う。
「なかなか素早いですな」
再び草を動かす。
小春は前足で捕まえようとするが
あと少し届かない。
その様子に
祐兵も思わず笑みを浮かべた。
「真剣そのものだな」
「戦場の兵より真剣かもしれませんぞ」
豊久が言う。
その言葉に
祐兵は声を押さえて笑った。
やがて黒猫も近づいてきた。
小春ほど激しくはないが
草の先を前足でちょんと触れる。
「黒猫殿も参戦ですな」
豊久が嬉しそうに言う。
二匹はしばらく草を追いかけて遊んだ。
やがて疲れたのか
小春がごろんと寝転がる。
お腹を見せて
気持ちよさそうに伸びをした。
「無防備ですな」
豊久が笑いながら撫でる。
小春は喉を鳴らした。
黒猫もその隣へ座り
静かに目を細めている。
「こうしていると、猫も人も変わらぬな」
祐兵が言った。
「と申しますと?」
豊久が尋ねる。
「よく遊び、よく食べ、よく休む」
祐兵は小春を見つめた。
「穏やかな日々を楽しむところは同じだ」
豊久は頷く。
「確かにそうですな」
庭には蝉の声が響いていた。
しかし縁側には涼しい風が吹き
心地よい時間が流れている。
小春は祐兵の足元へ移動し
丸くなった。
黒猫は豊久の隣へ座る。
「どうやら今日は我らが遊び相手に選ばれたようですな」
豊久が笑う。
「ああ」
祐兵も微笑んだ。
「悪くない役目だ」
夏の午後。
二人と二匹は
何気ないひとときを楽しみながら
穏やかな時間を過ごすのだった。




