第三百十三話 城下の夏景色
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夏の朝。
鍛錬を終えた後の城下町には
活気ある人々の声が響いていた。
伊東祐兵と島津豊久は
見回りを兼ねて城下を歩いていた。
空は高く晴れ渡り
眩しい陽光が町並みを照らしている。
「今日も良い天気ですな」
豊久が空を見上げる。
「ああ」
祐兵は頷いた。
「町の様子を見るには良い日だ」
通りには商人が店を開き
野菜や魚を並べている。
行き交う町人たちの表情も明るい。
「祐兵様、豊久様」
魚屋の主人が声を掛けてきた。
「おはようございます」
「おはよう」
祐兵は笑顔で応じた。
「商いはどうだ」
「おかげさまで順調です」
主人は元気よく答える。
その様子に
祐兵は満足そうに頷いた。
さらに歩いていくと
子どもたちが木の枝を振り回して遊んでいた。
「それっ!」
「待て待て!」
元気な声が響く。
「楽しそうですな」
豊久が目を細めた。
「ああ」
祐兵は微笑む。
「子どもたちの笑顔を見ると安心する」
その時。
「にゃあ」
聞き慣れた鳴き声がした。
振り返ると
小春が通りの端から歩いて来る。
茶トラの尻尾をぴんと立て
得意そうな顔をしていた。
「小春殿」
豊久が手を振る。
小春は二人の足元まで来ると
満足そうに喉を鳴らした。
少し離れた場所から
黒猫もゆっくりと姿を現す。
「今日も一緒ですな」
豊久が笑う。
「城下の見回り役かもしれぬな」
祐兵も笑った。
二人と二匹はそのまま通りを進む。
やがて井戸のある広場へ出た。
町人たちが水を汲み
談笑している。
「平穏ですな」
豊久が言う。
「それが何よりだ」
祐兵は静かに答えた。
「戦のない日々は、決して当たり前ではない」
豊久は頷く。
二人はしばらく広場の様子を見守った。
人々の笑顔。
子どもたちの笑い声。
商人たちの元気な呼び声。
それらは守るべき大切なものだった。
やがて日が少し高くなる。
「そろそろ茶屋で一休みしたいですな」
豊久が言った。
祐兵は思わず笑う。
「豊久殿は鍛錬の後も、茶屋のことを忘れぬな」
「歩けば腹も減りますので」
豊久は胸を張った。
その答えに
祐兵は声を上げて笑う。
小春も
まるで賛成するように「にゃあ」と鳴いた。
夏空の下。
祐兵と豊久
そして小春と黒猫は
穏やかな城下町をゆっくりと歩き続けるのだった。




