第三百九話 鮎の塩焼き
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
鮎釣りを楽しんだ翌日の昼。
夏の日差しが館の庭を明るく照らしていた。
伊東祐兵と島津豊久は
縁側で涼みながら料理ができるのを待っていた。
昨日釣り上げた鮎は
朝から料理番によって丁寧に下ごしらえされている。
「楽しみですな」
豊久が庭を眺めながら言った。
「ああ」
祐兵は頷く。
「自ら釣った鮎をいただくのは格別だ」
やがて炭火の香ばしい香りが漂ってきた。
料理番が鮎の串焼きを運んでくる。
「お待たせいたしました」
皿の上には
こんがりと焼き上がった鮎が並んでいた。
皮は黄金色に輝き
炭火の香りが食欲を誘う。
「見事な焼き加減ですな」
豊久は目を輝かせた。
「うむ」
祐兵も満足そうに頷く。
「料理番の腕前も見事だ」
二人は手を合わせた。
「いただきます」
まず豊久が一口食べる。
すると表情がぱっと明るくなった。
「美味い!」
思わず声が出る。
「香りが良く、身も柔らかいですな」
祐兵も鮎を口に運ぶ。
炭火の香ばしさと
鮎独特の風味が広がった。
「ああ」
祐兵は微笑む。
「まことに美味い」
「昨日の苦労が報われましたな」
豊久は嬉しそうに笑った。
「川の恵みというものはありがたい」
祐兵が言う。
「自然に感謝せねばならぬな」
二人はゆっくりと鮎を味わった。
その時だった。
「にゃあ」
聞き慣れた鳴き声が響く。
小春が縁側へやって来た。
後ろから黒猫も歩いてくる。
「小春殿」
豊久が笑顔になる。
小春は鮎の香りに気づいたのか
祐兵たちの足元へ近づいてきた。
「やはり来たか」
祐兵は苦笑する。
料理番は用意していた小皿を持ってきた。
鮎の身をほぐし
骨を取り除いてある。
「こちらをどうぞ」
小春は嬉しそうに食べ始めた。
黒猫も静かに味わっている。
「美味しそうですな」
豊久は目を細めた。
「よほど気に入ったようだ」
祐兵も笑う。
縁側には穏やかな時間が流れていた。
風鈴が涼しげな音を鳴らし
庭の木々が風に揺れる。
食事を終える頃には
皿の上の鮎はきれいになくなっていた。
「ごちそうさまでした」
豊久が満足そうに言う。
「ああ」
祐兵も頷いた。
「良い昼餉であった」
小春は食後の日向で丸くなり
黒猫もその隣で目を閉じる。
穏やかな夏の日。
川で釣り上げた鮎は
二人と二匹に小さな幸せをもたらしてくれた。
祐兵たちは
心地よい風を感じながら
しばし夏の午後を楽しむのだった。




