第三百八話 清流の鮎
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夏の日差しが山々を照らす朝。
伊東祐兵と島津豊久は
城下を流れる清流へ足を運んでいた。
川面は朝日に輝き
澄んだ水が絶え間なく流れている。
「今日は鮎釣りですな」
豊久が嬉しそうに言った。
「ああ」
祐兵は頷く。
「この時季の鮎は香りも良い。川の恵みをいただこう」
二人は川辺へ腰を下ろし
釣りの支度を始めた。
水辺には涼しい風が吹き
暑さも幾分和らいでいる。
「見ているだけでも気持ちが良い川ですな」
豊久は流れを眺めた。
「良い川には良い鮎が育つ」
祐兵はそう言いながら
仕掛けを流れへ投じた。
豊久も続く。
二人は静かに糸を垂れた。
聞こえるのは水音と鳥の声だけ。
穏やかな時間が流れていく。
しばらくすると、
「おっ」
豊久の竿が大きくしなった。
「来ました!」
慌てずに竿を立てる。
銀色の魚影が水中で躍った。
「鮎です!」
豊久は嬉しそうに声を上げる。
「見事だ」
祐兵も微笑んだ。
釣り上げられた鮎は
朝日を受けて美しく輝いている。
「これは立派ですな」
豊久は満足そうだった。
その後
祐兵にも当たりが来た。
静かに竿を操り
見事な鮎を釣り上げる。
「さすが祐兵殿」
豊久が感心する。
「まだまだだ」
祐兵は笑った。
「川の方が一枚上手かもしれぬ」
やがて二人の魚籠には
食べるには十分な数の鮎が入った。
「これだけあれば足りますな」
豊久が言う。
「ああ」
祐兵は頷いた。
「必要以上はいただかぬ。残りはまた来年も楽しませてくれる」
二人は釣りを終え
川辺の石へ腰を下ろした。
その時。
「にゃあ」
聞き慣れた声が響く。
小春が草むらから姿を現した。
「小春殿!」
豊久が笑顔になる。
小春は二人の間へ座り
興味深そうに魚籠の中を覗き込んだ。
少し遅れて黒猫もやって来る。
「どこから来たのやら」
祐兵は苦笑した。
「気づけばいつも近くにおりますな」
豊久も笑う。
小春は鮎の匂いを嗅ぎ
満足そうに喉を鳴らした。
川の流れは変わらず穏やかだった。
山から吹き下ろす風が
四人を優しく包む。
「今日は良い日になりましたな」
豊久が空を見上げる。
「ああ」
祐兵も頷いた。
「自然の恵みに感謝せねばならぬ」
鮎の入った魚籠を手に
二人は帰路につく。
その後ろを
小春と黒猫がついて行く。
夏の清流には
いつまでも涼やかな水音が響いていた。




