第三百七話 涼風の茶屋
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
早朝の散歩を終えた後。
城下町を歩く
祐兵と豊久の頭上には
夏の青空が広がっていた。
朝日が高くなり始め
通りには少しずつ人が増えている。
商人たちは店を開き
町人たちは忙しそうに行き交っていた。
「朝の町も賑やかになってきましたな」
豊久が周囲を見回す。
「ああ」
祐兵は頷いた。
「人々が元気に暮らしている姿を見ると安心する」
しばらく歩いていると
見慣れた茶屋が見えてきた。
暖簾が風に揺れ
香ばしい茶の香りが漂っている。
「祐兵殿」
豊久が笑顔を浮かべた。
「少し休んで参りませんか」
「そうだな」
祐兵も微笑む。
「ちょうど喉も渇いていたところだ」
二人は茶屋へ入った。
「いらっしゃいませ」
看板娘が明るく迎える。
「いつもの席が空いておりますよ」
「ありがとう」
祐兵は礼を述べ
窓際の席へ腰を下ろした。
豊久も向かいに座る。
やがて湯気の立つ茶碗が運ばれてきた。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございます」
豊久は早速茶碗を手に取った。
ふわりと立ち上る香りに
思わず顔がほころぶ。
「良い香りですな」
「歩いた後の茶は格別だ」
祐兵も一口飲み
静かに息を吐いた。
窓の外では
子どもたちが元気に走り回っている。
商人たちの威勢の良い声も聞こえてきた。
「こうして眺めていると、平和な日々のありがたさが分かりますな」
豊久が言う。
「ああ」
祐兵は穏やかに頷く。
「守るべきものがあるからこそ、武士は務めを果たせる」
その時だった。
「にゃあ」
聞き慣れた鳴き声がした。
小春が茶屋の入口から顔を覗かせる。
その後ろから黒猫も姿を現した。
「おや、小春殿」
豊久が笑顔になる。
小春は慣れた様子で二人の足元へやって来た。
黒猫は入口近くの日陰に座り
静かに目を細める。
「すっかり常連ですな」
豊久が笑う。
看板娘も微笑んだ。
「小春ちゃんたちが来ると、お店も賑やかになります」
小春は満足そうに喉を鳴らした。
祐兵はその姿を見て
優しく目を細める。
「皆に愛されているな」
「小春殿の人柄……いや猫柄ですな」
豊久が言うと
看板娘は思わず吹き出した。
祐兵も肩を揺らして笑う。
穏やかな笑い声が
茶屋の中に広がった。
しばらくして茶を飲み終える。
「ごちそうさまでした」
祐兵が礼を述べる。
「ありがとうございました」
豊久も頭を下げた。
「またお越しくださいませ」
看板娘は笑顔で二人を見送る。
茶屋を出ると
心地よい風が吹き抜けた。
青空の下
城下町には人々の笑顔があふれている。
祐兵と豊久
そして小春と黒猫は
穏やかな時間の余韻を感じながら
ゆっくりと町を歩いていくのだった。




