第三百三話 浜辺の昼寝
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夏の昼下がり。
朝の暑さが少し和らいだ頃
伊東祐兵と島津豊久は
城下から少し離れた浜辺へ足を運んでいた。
青い海がどこまでも広がり
寄せては返す波の音が
静かに浜へ響いている。
「海風が心地よいですな、祐兵殿」
豊久は砂浜を歩きながら
気持ちよさそうに目を細めた。
「ああ。今日は静かに過ごすのも悪くない」
二人は波打ち際から少し離れた場所に
腰を下ろした。
砂は昼の日差しで温められているが
海から吹く風が心地よく
暑さを和らげてくれる。
「朝から相撲をしたせいでしょうか。少し眠くなってきました」
豊久が大きく伸びをする。
「私もだ」
祐兵は苦笑した。
二人は浜辺に横になり
頭の下に腕を置いた。
しばらくすると
波の音だけが耳に入ってくる。
ざあ……。
ざあ……。
豊久は目を閉じた。
「この音を聞いていると、眠くなりますな」
「ああ。ゆっくり休むとよい」
祐兵も目を閉じる。
やがて二人とも
心地よい海風に包まれながら
静かに眠りへ落ちていった。
少し離れたところでは
小春が砂の上で丸くなっている。
黒猫も木陰を選び
涼しそうに昼寝をしていた。
海鳥の声と波の音。
夏の浜辺には
穏やかな時間が流れていた。
どれほど眠っただろうか。
豊久がゆっくりと目を開ける。
「……よく眠りました」
隣を見ると
祐兵も目を覚ましていた。
「ああ。久しぶりに昼寝をしたな」
豊久は身体を起こし
海を眺める。
「何もせずにこうして過ごすのも、良いものですな」
「武士も時には休まねばならぬ」
祐兵は笑った。
「身体を休めることも、鍛錬のうちだ」
「なるほど。では、今日の昼寝も立派な鍛錬ですな」
豊久が笑う。
「そういうことにしておこう」
二人は顔を見合わせて笑った。
「にゃあ」
小春が目を覚まし
二人のもとへ歩いてくる。
黒猫もゆっくりと身体を起こした。
「小春殿たちも、よく眠っていたようですな」
「ああ。皆、良い休みになったようだ」
二人は立ち上がり
衣についた砂を払った。
海から吹く風が
汗ばんだ身体を優しく撫でていく。
「そろそろ戻りますか」
「そうしよう」
祐兵と豊久は
小春と黒猫を連れて
浜辺を後にした。
夏の海は
二人の背中を見送るように
静かに波を寄せ続けていた。




