第二百九十六話 城下町、歩く
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夏の暑い日。
朝の鍛錬を終えた
伊東祐兵と島津豊久は
城下町の見回りを兼ねて歩いていた。
夏の日差しは少しずつ強くなっていたが
朝の風はまだ心地よい。
「鍛錬の後に歩くと、体も軽く感じますな」
豊久が笑顔で言う。
「ああ」
祐兵は静かに頷いた。
「町の様子を見ることも、武士の大切な務めだ」
通りには店を開く商人や
朝市へ向かう人々の姿が見える。
「おはようございます」
町人たちが笑顔で頭を下げる。
「おはよう」
祐兵も穏やかに挨拶を返した。
豊久も元気よく手を挙げる。
「今日も良い一日になりそうですな」
その時だった。
「祐兵さま! 豊久さま!」
元気な声が響く。
近くで遊んでいた子どもたちが
二人のもとへ駆け寄ってきた。
「今日は鍛錬をしてきたのですか」
「はい」
豊久が笑顔で答える。
「朝からしっかり鍛えてきました」
「すごい!」
子どもたちは目を輝かせた。
「僕も強くなりたい!」
その言葉に
豊久は優しく微笑む。
「強くなるには、毎日少しずつ続けることが大切です」
祐兵も頷いた。
「力だけではなく、礼儀や思いやりも忘れてはならぬ」
「はい!」
子どもたちは元気よく返事をした。
その様子を見ていた町人たちも
自然と笑みを浮かべる。
「お二人は子どもたちにも人気ですな」
店先の主人が声を掛けた。
「ありがたいことだ」
祐兵は穏やかに答える。
「未来を担う子らが、健やかに育ってくれれば何よりだ」
「そのためにも、町を守らねばなりませぬ」
豊久は力強く言った。
「にゃあ」
聞き慣れた鳴き声がした。
小春が路地から姿を現し
二人の足元へ駆け寄る。
黒猫もゆっくりと後をついてきた。
「小春殿!」
子どもたちは嬉しそうにしゃがみ込み
優しく撫でる。
小春は気持ち良さそうに
喉を鳴らした。
黒猫は少し離れた場所へ座り
静かにその様子を眺めている。
「今日も町は平和ですな」
豊久が空を見上げる。
「ああ」
祐兵も青空を見つめた。
「この笑顔を守るためにも、日々の務めを怠ってはならぬ」
二人は子どもたちに手を振り
再び城下町を歩き始めた。
夏空の下には
人々の笑い声が響き
穏やかな時間が流れている。
祐兵と豊久
そして小春と黒猫は
今日も平和な飫肥の町を見守りながら
ゆっくりと歩みを進めるのだった。




