第二百九十四話 茶屋のひととき
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
ある夏の日。
夏の日差しが城下町を照らし
通りには穏やかな賑わいが広がっていた。
朝の務めを終えた
伊東祐兵と島津豊久は
城下町の見回りを兼ねて歩いていた。
「今日も町は平穏ですな」
豊久が辺りを見回す。
「ああ」
祐兵は静かに頷いた。
「人々の笑顔を見ると、心も安らぐ」
ひと通り町を歩き終えると
通りの一角にある馴染みの茶屋が目に入った。
暖簾が風に揺れ
店先から香ばしい茶の香りが漂ってくる。
「豊久殿、少し休んでいこう」
「ありがとうございます」
二人は店へ入り
窓際の席へ腰を下ろした。
「いらっしゃいませ」
看板娘が笑顔で迎える。
「いつものお茶を二つ頼む」
祐兵が穏やかに頼む。
「かしこまりました」
しばらくすると
湯気の立つ茶碗が運ばれてきた。
立ち上る香りは爽やかで
ほっと心が落ち着く。
豊久は茶碗を手に取り
ゆっくりと口へ運ぶ。
「良い香りですな」
「歩いた後の一杯は格別だ」
祐兵も静かに茶を味わう。
店の外では
子どもたちが楽しそうに駆け回り
商人たちの威勢の良い声が聞こえていた。
「こうして町の音を聞きながら過ごす時間も良いものですな」
豊久が微笑む。
「ああ」
祐兵は窓の外へ目を向けた。
「平穏な日々が続くからこそ、こうした時間を楽しめる」
その時。
「にゃあ」
聞き慣れた鳴き声がした。
小春が茶屋の入口から顔を覗かせる。
黒猫も静かに後を歩いてきた。
「お前たちも休憩か」
祐兵が笑みを浮かべる。
小春は二人の足元へ駆け寄り
嬉しそうに尻尾を立てる。
黒猫は縁台の下へ座り
涼しい日陰で静かに目を細めた。
看板娘はその様子を見て微笑む。
「今日も仲が良いのですね」
「町を歩いていると、いつの間にか合流してくれる」
祐兵が優しく答える。
「小春殿も黒猫殿も、立派な散策仲間ですな」
豊久が笑うと
小春は嬉しそうに喉を鳴らした。
茶を飲み終えると
二人は席を立つ。
「ごちそうさまでした」
祐兵が礼を述べる。
「ありがとうございました」
豊久も頭を下げた。
「またお越しください」
看板娘は笑顔で二人を見送る。
茶屋を出ると
心地よい夏風が吹き抜けた。
穏やかな城下町には
今日も人々の笑顔があふれている。
二人と二匹は
ゆっくりと町を歩きながら
平和な夏の一日を楽しむのだった。




