第二百九十話 夏市の賑わい
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
翌朝。
青空がどこまでも広がり
城下町は朝から活気に満ちていた。
店先には新鮮な野菜や魚が並び
商人たちの威勢の良い声が通りに響いている。
朝の務めを終えた
伊東祐兵と島津豊久は
城下町をゆっくりと散策していた。
「今日は一段と賑やかですな」
豊久が辺りを見回す。
「ああ」
祐兵は穏やかに頷いた。
「人々に活気がある町は、見ていて嬉しくなる」
二人は石畳の道を歩く。
八百屋には胡瓜や茄子
南瓜が並び
夏の実りが店先を彩っていた。
「今年も豊作のようですな」
豊久が言う。
「人々の努力の賜物だ」
祐兵は店主へ軽く会釈した。
「祐兵様、豊久様」
店主が笑顔で頭を下げる。
「暑い日が続きますので、お体にお気を付けください」
「ありがとう」
祐兵は穏やかに答える。
「皆も無理をせず励んでくれ」
さらに歩くと
鍛冶屋から力強い槌音が聞こえてきた。
職人たちは真剣な表情で鉄を鍛え
汗を流している。
「朝から見事な働きぶりですな」
豊久が感心する。
「ああ」
祐兵は頷いた。
「良い仕事は、日々の積み重ねから生まれる」
その時。
「にゃあ」
小春が路地から姿を現した。
元気よく二人のもとへ駆け寄る。
黒猫も静かに後を歩いてきた。
「今日も一緒に散策か」
祐兵が笑みを浮かべる。
小春は嬉しそうに祐兵の足元を歩き回り
黒猫は少し離れた場所から町の様子を眺めている。
「二匹とも、町の人気者になりましたな」
豊久が優しく頭を撫でる。
近くで遊んでいた子どもたちも
小春と黒猫を見つけて笑顔になる。
「猫さんだ」
子どもたちは嬉しそうに手を振る。
小春は元気よく鳴き
黒猫は静かに尾を揺らした。
その微笑ましい様子を見て
町の人々も自然と笑顔になる。
「皆の笑顔を見ると安心します」
豊久が穏やかに言う。
「ああ」
祐兵は町並みを見渡した。
「人々が笑い合える町こそ、守るべき宝だ」
心地よい夏風が通りを吹き抜ける。
軒先に吊るされた風鈴が
澄んだ音色を響かせた。
二人と二匹は
活気あふれる城下町をゆっくりと歩きながら
平和な夏のひとときを楽しむのだった。




