第二百八十七話 静養の日
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
翌朝。
館の庭では
朝露に濡れた草葉が朝日に輝いていた。
蝉の声が聞こえ
穏やかな夏風が縁側を吹き抜けていく。
腹の痛みが治まるまで
島津豊久は館で静養することになった。
布団へ横になりながら
窓の外を静かに眺めている。
「だいぶ顔色が良くなったな」
伊東祐兵が部屋へ入ってきた。
「おかげさまで、昨日より楽になりました」
豊久はゆっくりと体を起こした。
「それは何よりだ」
祐兵は安心したように頷く。
「だが、今日も無理は禁物だ」
「承知しました」
豊久は素直に答えた。
その時。
「にゃあ」
小春が部屋へ入ってきた。
豊久の布団の横まで歩いてくると
くるりと丸くなった。
続いて黒猫も姿を現し
少し離れた場所へ静かに伏せる。
「二匹とも、今日も来てくれたのですな」
豊久は優しく微笑んだ。
小春は喉を鳴らしながら
気持ち良さそうに目を閉じる。
黒猫も穏やかな表情で
豊久を見守っていた。
「良い見舞い役だ」
祐兵が笑みを浮かべる。
「見ているだけで心が和む」
「本当にそうです」
豊久も笑顔になる。
しばらくすると
女中が朝餉を運んできた。
湯気の立つ粥と
薬師が勧めた薬草を煎じた茶が並ぶ。
「少しずつ召し上がってください」
女中が頭を下げる。
「ありがとうございます」
豊久は手を合わせた。
「いただきます」
温かい粥をゆっくりと口へ運ぶ。
「優しい味です」
豊久が穏やかに言う。
「弱った体には、このくらいがちょうど良い」
祐兵も頷いた。
食べ終えると
豊久の表情はさらに明るくなっていた。
「食欲も戻ってきました」
「順調な証だ」
祐兵は安心したように笑う。
「あと一日ほど静養すれば、いつものように動けるだろう」
「焦らず体を休めます」
豊久は静かに答えた。
窓の外では
蝉時雨が賑やかに響いている。
風鈴が涼やかな音を奏で
夏風が部屋を優しく通り抜けた。
小春は豊久の傍らで眠り
黒猫も静かに目を閉じている。
穏やかな時間が流れる館の一室で
豊久は心と体をゆっくりと休めながら
回復の日を静かに待つのだった。




