第二百八十五話 城下を歩く
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夏の朝。
夏空は高く澄み渡り
城下町には朝から活気が満ちていた。
店先には様々な品が並び
商人たちの威勢の良い声が通りへ響いている。
朝の務めを終えた
伊東祐兵と島津豊久は
城下町をゆっくりと歩いていた。
「今日も賑わっておりますな」
豊久が辺りを見回す。
「ああ」
祐兵は穏やかに頷いた。
「人々の笑顔を見ると、町が平穏であることを実感する」
二人は石畳の道を進む。
鍛冶屋からは
槌を打つ小気味よい音が聞こえてきた。
火花が舞い
職人たちは汗を流しながら鉄を鍛えている。
「朝から励んでおりますな」
豊久が感心する。
「良い道具は、職人の鍛錬から生まれる」
祐兵は職人たちへ軽く会釈した。
職人たちも笑顔で頭を下げる。
さらに歩くと
反物を並べた店が目に入る。
色鮮やかな布が風に揺れ
通りを明るく彩っていた。
「どれも見事な織物ですな」
豊久が目を輝かせる。
「多くの者の手で織り上げられた品だ」
祐兵は布地へ優しく目を向けた。
その先では
団子屋の主人が炭火で焼き団子を焼いている。
香ばしい香りが
通りいっぱいへ広がった。
「お二人とも、焼きたてですよ」
主人が笑顔で声を掛ける。
「それでは一本いただこう」
祐兵が答える。
「ありがとうございます」
豊久も嬉しそうに受け取った。
二人は軒先の長椅子へ腰を下ろす。
「香ばしくて美味しいですな」
豊久が笑みを浮かべる。
「ああ」
祐兵も頷いた。
「町を歩きながらいただく団子は、また格別だ」
その時。
「にゃあ」
小春が路地から駆けてきた。
黒猫も静かな足取りで後を歩いてくる。
「今日も我らを見つけたか」
祐兵が微笑む。
小春は豊久の足元へすり寄り
嬉しそうに喉を鳴らした。
黒猫は近くの日陰へ座り
静かに町の様子を眺めている。
「二匹も城下が気に入っておりますな」
豊久が優しく頭を撫でる。
「皆が穏やかだからだろう」
祐兵は笑みを浮かべた。
子どもたちが元気よく走り回り
町人たちは笑顔で言葉を交わす。
その何気ない光景が
城下町の平和を物語っていた。
「この景色を、いつまでも守っていきたいですな」
豊久が静かに言う。
「ああ」
祐兵は力強く頷いた。
「人々が安心して暮らせる町こそ、何よりの宝だ」
夏風が城下町を吹き抜ける。
活気と笑顔に包まれた町を歩きながら
二人と二匹は
穏やかなひとときを楽しむのだった。




