↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
280/381

第二百七十七話 夏の山籠り

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵《いとうすけたか》。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久《しまづとよひさ》。島津氏家臣で、島津家久《しまづいえひさ》の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

数日後。


朝霧が山々を包み


木々の間から柔らかな朝日が差し込んでいた。


澄んだ空気には


杉や檜の香りが漂い


小鳥たちのさえずりが静かに響いている。


伊東祐兵《いとう すけたか》と島津豊久《しまづ とよひさ》は


数日間の山籠りのため


深山へ足を踏み入れていた。


「山の空気は格別ですな」


豊久(とよひさ)が大きく息を吸い込む。


「うむ」


祐兵(すけたか)は頷いた。


「心が澄み、雑念も消えていく」


二人は山道をゆっくり登る。


木漏れ日が足元を照らし


清らかな沢の音が近くから聞こえてきた。


「まずは沢で水をいただこう」


祐兵(すけたか)が言う。


二人は手で澄んだ水をすくい


喉を潤した。


「冷たくて美味しいですな」


豊久(とよひさ)が笑みを浮かべる。


「山の恵みだ」


祐兵(すけたか)も穏やかに答えた。


さらに奥へ進むと


開けた場所へたどり着く。


古くから山籠りに使われてきた小さな庵が


静かに佇んでいた。


「今日はここで過ごそう」


「承知しました」


二人は庵の周りを掃き清め


薪を集める。


その頃。


「にゃあ」


聞き慣れた鳴き声がした。


振り向くと


小春《こはる》が草むらから姿を現した。


黒猫も静かに後を歩いてくる。


「お前たちまで来たのか」


祐兵(すけたか)が目を細める。


小春《こはる》は庵の周りを元気よく歩き回り


初めて見る景色へ興味津々だった。


黒猫は縁へ腰を下ろし


森の静けさへ耳を澄ませている。


「山の暮らしも気に入ったようですな」


豊久(とよひさ)が笑う。


「ああ。自然の中では、誰もが穏やかになる」


昼になると


二人は庵の前へ腰を下ろした。


風が木々を揺らし


葉擦れの音が絶え間なく響く。


蝉の声も


町で聞くものとはどこか違って聞こえた。


「何も語らぬ山だが、多くを教えてくれる」


祐兵(すけたか)が静かに呟く。


「はい」


豊久(とよひさ)は深く頷く。


「自然の前では、己の小ささを知ります」


しばらく二人は目を閉じ


風の音へ耳を傾けた。


聞こえるのは


沢のせせらぎ。


鳥のさえずり。


木々を渡る風。


それだけだった。


「こうした静けさも、武芸を磨くためには必要だ」


祐兵(すけたか)がゆっくりと立ち上がる。


「心が乱れていては、良い太刀も放てぬ」


「私も、この静けさを胸へ刻みます」


豊久(とよひさ)は力強く答えた。


夕暮れが近づく頃


山々は淡い橙色に染まり始める。


小春《こはる》は祐兵の隣で丸くなり


黒猫も庵の縁で静かに目を閉じた。


二人と二匹は


深山の静寂へ身を委ねながら


穏やかな山籠りの一日を過ごすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。