第二百七十五話 城下逍遥
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夏の朝。
夏空がどこまでも広がり
城下町は朝から活気に満ちていた。
商人たちの威勢の良い声が響き
軒先には色とりどりの品が並ぶ。
朝の務めを終えた
伊東祐兵と島津豊久は
城下町をゆっくりと歩いていた。
「今日は見回りというより、町をのんびり歩きましょう」
豊久が微笑む。
「ああ」
祐兵は頷いた。
「町の空気に触れるのも、大切なことだ」
二人は石畳の通りを進む。
八百屋には
朝採れの胡瓜や茄子が並び
夏野菜の瑞々しい香りが漂っていた。
「見事な出来栄えですな」
豊久が感心する。
「今年も豊作のようだ」
祐兵は店主へ軽く会釈した。
「祐兵様、豊久様。おはようございます」
店主も笑顔で頭を下げる。
「今日も暑くなりますぞ」
「水分を忘れぬようにな」
祐兵が穏やかに声を掛ける。
「ありがとうございます」
店主は嬉しそうに笑った。
さらに歩くと
団子屋から香ばしい匂いが漂ってきた。
焼き団子が炭火で焼かれ
甘辛い味噌の香りが風に乗る。
「良い香りですな」
豊久のお腹が小さく鳴る。
祐兵は思わず笑った。
「少し休んでいこう」
二人は焼きたての団子を受け取り
軒先の長椅子へ腰を下ろした。
「熱いのでお気を付けください」
店の主人が声を掛ける。
「いただきます」
豊久は一口頬張る。
「これは美味しい」
「焼き加減が絶妙だ」
祐兵も満足そうに頷いた。
その時。
「にゃあ」
小春が路地から姿を現した。
黒猫も静かに後をついてくる。
「お前たちも散歩か」
祐兵が笑う。
小春は二人の足元へ駆け寄り
嬉しそうに尻尾を立てた。
黒猫は日陰へ座り
静かに町の様子を眺めている。
「今日も仲が良いですな」
豊久が優しく頭を撫でると
小春は嬉しそうに喉を鳴らした。
食べ終えた二人は
再び町を歩き始める。
鍛冶屋からは槌を打つ音が聞こえ
染物屋では色鮮やかな布が風に揺れていた。
子どもたちは通りを元気に駆け回り
町には笑顔があふれている。
「皆が穏やかに暮らしている」
祐兵は町並みを見渡した。
「それが何より嬉しい」
豊久も大きく頷く。
「この賑わいが、いつまでも続いてほしいものですな」
「ああ」
祐兵は静かに答えた。
「だからこそ、我らはこの町を守り続ける」
夏の陽射しが城下町を照らす中
二人と二匹は人々の笑顔を見守りながら
穏やかな散策を楽しむのだった。




