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祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


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第二百七十四話 夕凪の浜

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵《いとうすけたか》。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久《しまづとよひさ》。島津氏家臣で、島津家久《しまづいえひさ》の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

七月の夕暮れ。


西の空は茜色に染まり


静かな海が夕陽を映して黄金色に輝いていた。


昼の暑さも和らぎ


浜辺には心地よい潮風が吹いている。


朝の務めを終えた


伊東祐兵《いとう すけたか》と島津豊久《しまづ とよひさ》は


夕暮れの浜辺をゆっくりと歩いていた。


「昼とはまた違う趣がありますな」


豊久(とよひさ)が穏やかに海を眺める。


「ああ」


祐兵(すけたか)も静かに頷いた。


「夕凪の海は、心を落ち着かせてくれる」


波は穏やかだった。


静かに寄せては返し


砂浜へ優しい音を残していく。


二人は足を止め


水平線へ目を向けた。


沖では漁船が港へ戻り


船頭たちの声が風に乗って聞こえてくる。


「今日も良い漁だったようですな」


豊久(とよひさ)が言う。


「皆が無事に帰る。そのことが、何より大切だ」


祐兵(すけたか)は静かに答えた。


その時。


「にゃあ」


小春《こはる》が砂浜を駆けてきた。


黒猫も少し後ろから


ゆっくりと歩いてくる。


「また我らを見つけたか」


祐兵(すけたか)が笑みを浮かべる。


小春《こはる》は波打ち際まで走ると


寄せてくる波を見つめて前足を伸ばした。


波が足先へ触れる。


「にゃっ」


驚いて飛び退き


そのまま祐兵(すけたか)たちのもとへ戻ってきた。


豊久(とよひさ)は思わず笑う。


「今度も波には勝てませんでしたな」


「少しずつ慣れていくであろう」


祐兵(すけたか)は小春《こはる》の頭を優しく撫でた。


黒猫は松の木陰へ座り


夕陽に染まる海を静かに眺めている。


「黒猫は景色を楽しんでいるようですな」


「静かな時間が好きなのだろう」


祐兵(すけたか)も木陰へ腰を下ろした。


豊久(とよひさ)も隣へ座る。


しばらく四人は


何も語らず潮騒へ耳を傾けていた。


空は茜色から紫色へと移り変わり


一番星が静かに姿を現す。


「夏の夕暮れは、過ぎるのが早いですな」


豊久(とよひさ)が名残惜しそうに空を見上げる。


「ああ」


祐兵(すけたか)は微笑んだ。


「だからこそ、このひとときがより尊く感じられる」


潮風が静かに吹き抜ける。


寄せる波は変わらず穏やかで


浜辺には夕凪の静けさが広がっていた。


「また来ましょう」


豊久(とよひさ)が言う。


「もちろんだ」


祐兵(すけたか)は頷いた。


「この海は、いつ来ても我らを静かに迎えてくれる」


夕陽がゆっくりと水平線の彼方へ沈み


辺りは優しい薄暮に包まれていく。


二人と二匹は


夕凪の浜を後にしながら


穏やかな夏の一日を心に刻むのだった。

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