第二百六十四話 夏の日向ぼっこ
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
昼下がり。
七月の陽射しが
館の庭へ降り注いでいた。
青空には白い雲が浮かび
蝉が賑やかに鳴いている。
風は穏やか。
時折吹き抜ける風が
青々とした木々の葉を揺らした。
朝の務めを終えた
伊東祐兵と島津豊久は
縁側へ腰を下ろしていた。
「今日は良い天気ですな」
豊久が空を見上げる。
「ああ」
祐兵も静かに頷いた。
「こういう日は、何もしない時間も大切だ」
豊久は縁側へ寝転ぶ。
「それでは、少しだけ失礼しますぞ」
「寝過ぎるなよ」
「心得ております」
そう言った直後。
目を閉じる。
「早いな」
祐兵が苦笑した。
庭では
小春が日の当たる場所で丸くなっていた。
「にゃあ」
気持ち良さそうに喉を鳴らしている。
しばらくすると
黒猫も静かに歩いてきた。
小春の少し隣へ座る。
暑すぎない距離を保ちながら
ゆっくりと目を閉じた。
「珍しいな」
祐兵が呟く。
普段は少し離れている黒猫も
今日は穏やかな空気に身を委ねているようだった。
蝉の声。
葉擦れの音。
遠くから聞こえる城下の賑わい。
どれも心地よい。
やがて。
「……すぅ」
豊久の寝息が聞こえ始めた。
「やはり寝たか」
祐兵は小さく笑う。
その声にも
どこか優しさがあった。
祐兵は庭へ降りる。
木陰へ歩き
庭石に腰を下ろした。
陽だまりを眺める。
夏の日差しを浴びる小春。
木陰で静かに休む黒猫。
穏やかに眠る豊久。
何気ない光景。
だが
何よりも大切な時間だった。
「こういう日々が続けばいい」
祐兵は空を見上げる。
入道雲が
ゆっくりと流れていく。
七月の陽射しは力強い。
それでも
館の庭には穏やかな風が吹き続けていた。
二人と二匹は
蝉の声を聞きながら
夏の午後の静かなひとときを楽しむのだった。




