第二百六十一話 城下の見回り
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
翌朝。
六月の空は晴れ渡っていた。
青空の下を
涼しい風が吹き抜ける。
昨日の炊き出しも終わり
城下には少しずつ日常の賑わいが戻り始めていた。
伊東祐兵は館を出る。
その後ろを
島津豊久が続く。
小春は軽やかな足取りで先を歩き
黒猫は塀の上を静かに進んでいた。
「今日は見回りですな」
「ああ。地震の後だ。まだ困っている者がいないか見て回ろう」
二人は城下町へ入る。
魚屋では主人が店先を掃いていた。
「おはようございます」
豊久が声を掛ける。
「ああ、お二人とも」
主人は笑顔で頭を下げた。
「昨日は炊き出しをありがとうございました」
「家族みんなでいただきました」
「それは良かった」
祐兵も穏やかに頷く。
さらに歩く。
桶屋では職人が
落ちた看板を付け直していた。
「具合はどうだ」
祐兵が尋ねる。
「少し壊れましたが、この通りです」
職人は木槌を振りながら笑った。
「数日もあれば元通りになります」
「無理はするな」
「ありがとうございます」
町の人々の表情は明るい。
助け合いながら
復旧を進めているのが伝わってくる。
市場通りへ入ると
子どもたちが駆け回っていた。
「祐兵さま!」
「豊久さま!」
元気よく手を振る。
豊久も大きく手を振り返した。
「転ぶなよ!」
「はーい!」
子どもたちは笑いながら走っていく。
その後ろを
小春が楽しそうに追い掛けた。
「にゃあ!」
子どもたちの笑い声が響く。
黒猫は橋の欄干へ飛び乗り
静かに川を眺めていた。
川の水は昨日より澄み
穏やかに流れている。
「城下も落ち着いてきましたな」
豊久が言う。
「ああ。皆が力を合わせた結果だ」
その時。
一人の老婆が重そうな荷を抱えて歩いていた。
「おや」
豊久が駆け寄る。
「お持ちします」
「そんな、悪いですよ」
「遠慮なさらず」
豊久は荷を受け取った。
「ずいぶん重いですな」
「孫の家へ野菜を届ける途中でね」
老婆は嬉しそうに微笑んだ。
祐兵も自然と歩調を合わせる。
家まで送り届けると
老婆は何度も頭を下げた。
「ありがとうございました」
「気にすることはない」
祐兵が静かに答える。
再び城下を歩く二人。
商人の呼び声。
鍛冶屋の槌音。
井戸端で談笑する人々。
平穏な日常が戻りつつあった。
「こうして歩くと安心しますな」
豊久が周囲を見回す。
「異変は早く気付くことが大切だ」
祐兵はそう言って空を見上げた。
六月の青空には
白い雲がゆっくりと流れている。
小春は蝶を追い掛け
黒猫は静かに二人の後をついて歩く。
穏やかな城下の景色を見守りながら
二人と二匹はゆっくりと見回りを続けるのだった。




