第二百五十七話 雉の湯漬け
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
翌朝。
六月の朝は少し涼しかった。
昨夜の雉の香りが、
まだ館の台所に残っている。
囲炉裏には小鍋が掛けられ、
静かに湯気を上げていた。
伊東祐兵は、
鍋の様子を見ている。
中には昨夜の雉の骨。
さらに大根。
ごぼう。
生姜。
葱。
残っていた野菜が入っていた。
ことこと。
ことこと。
長く煮込まれた出汁は
黄金色に澄んでいる。
島津豊久が
匂いにつられてやって来た。
「良い香りですな」
「起きたか」
「腹が起こしてくれました」
「そうだろうな」
祐兵が苦笑する。
鍋から骨を取り出す。
最後に塩をひとつまみ。
余計な味付けはしない。
雉と野菜の旨味だけで十分だった。
「ほう……」
豊久が覗き込む。
「朝から豪勢ですな」
「昨夜の残りを無駄にしないだけだ」
炊きたての飯が椀へ盛られる。
白い湯気。
そこへ熱々の出汁を注ぐ。
さらさらと音を立てながら
飯が黄金色に染まっていく。
刻んだ葱。
少しだけ刻み大葉。
最後に昨夜ほぐして残しておいた雉肉を乗せた。
湯漬けの完成である。
「いただきますぞ!」
豊久が早速口へ運ぶ。
ずずっ。
熱い出汁が広がる。
続いて雉の旨味。
野菜の甘み。
塩の加減もちょうど良い。
豊久の顔が緩んだ。
「これは美味い!」
祐兵も静かに口へ運ぶ。
優しい味だった。
昨夜の力強い焼き雉とは違う。
身体へ染み渡るような味である。
「朝にはちょうど良いな」
「ああ」
二人は黙って箸を進めた。
囲炉裏の火が小さく鳴る。
外では鳥が囀っている。
庭の紫陽花は朝露をまとい
六月の風に揺れていた。
その時。
小春が現れた。
匂いに気付いたらしい。
「にゃあ」
「お前も来たか」
豊久が笑う。
黒猫も静かに縁側から入ってくる。
二匹には
味付け前に取り分けておいた雉肉が少し与えられた。
小春は夢中で食べる。
黒猫は落ち着いて味わっていた。
「昨日の雉も、こうして最後まで頂ける」
祐兵が言う。
豊久が頷いた。
「獲物も喜びますな」
「どうだろうな」
祐兵はそう言いながらも
少しだけ微笑んだ。
湯気の向こうで
豊久は椀を空にする。
「おかわりを頂いても?」
「好きにしろ」
「ありがとうございます!」
その返事に
祐兵は呆れながらも笑った。
こうして六月の朝は
山の恵みを味わう
穏やかな時間と共に始まるのだった。




