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祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


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第二百五十五話 初夏の雉

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵《いとうすけたか》。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久《しまづとよひさ》。島津氏家臣で、島津家久《しまづいえひさ》の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

早朝。


空は晴れていた。


昨夜の雨もなく


六月の山は爽やかな空気に包まれている。


草には朝露。


木々は深い緑。


遠くでほととぎすが鳴いていた。


伊東祐兵《いとう すけたか》と島津豊久《しまづ とよひさ》は


山裾の草原を歩いていた。


背には弓。


腰には山刀。


狙うは雉である。


「久しぶりの狩りですな」


豊久(とよひさ)が声を潜める。


「あまり喋るな」


祐兵(すけたか)が前方を見据えたまま答える。


「獲物に気付かれる」


「失礼」


豊久(とよひさ)も真面目な顔になった。


小春《こはる》は今日は留守番である。


山の深い場所は危険だからだ。


黒猫だけが


少し離れた岩の上を歩いていた。


相変わらず静かである。


風が吹く。


草が揺れる。


その時。


祐兵(すけたか)が手を上げた。


豊久(とよひさ)が止まる。


草むらの向こう。


一羽の雄雉がいた。


赤い顔。


美しい羽。


朝日を受けて輝いている。


「見事ですな……」


豊久(とよひさ)が小声で呟く。


祐兵(すけたか)は静かに弓を構えた。


呼吸を整える。


風を見る。


雉はまだ気付いていない。


ぴたり。


弦が引き絞られる。


放たれた矢は


真っ直ぐ飛んだ。


ひゅっ。


次の瞬間。


羽音が響く。


雉が跳ねた。


だが。


数歩進んだところで倒れる。


見事な一射だった。


「お見事!」


豊久(とよひさ)が思わず声を上げる。


「運が良かっただけだ」


祐兵(すけたか)はそう言ったが


豊久(とよひさ)は首を振った。


「今のは腕ですぞ」


二人は雉を回収する。


立派な雄だった。


命を頂く。


祐兵(すけたか)は静かに手を合わせる。


豊久(とよひさ)も続いた。


「ありがたく頂こう」


「ああ」


しばらく歩くと


今度は豊久(とよひさ)が足を止めた。


草陰にもう一羽。


こちらは若い雌雉だった。


豊久(とよひさ)は弓を構える。


真剣な顔。


だが。


その瞬間。


足元から野兎が飛び出した。


「おおっ!?」


豊久(とよひさ)が驚く。


兎も驚く。


雉も驚く。


ばさばさばさっ!


全部逃げた。


沈黙。


祐兵(すけたか)が空を見上げる。


「何をしている」


「いやあ……まったく。完全に油断しておりました」


豊久(とよひさ)が頭を掻いた。


黒猫が岩の上から


じっと見ている。


少し呆れているようにも見えた。


「まあ、一羽獲れた」


祐兵(すけたか)が笑う。


「そうですな」


豊久(とよひさ)も苦笑した。


帰り道。


山の風は心地良い。


六月の陽射しが


木々の間から差し込んでいる。


「今夜は雉鍋ですかな」


豊久(とよひさ)の顔が明るくなる。


「暑い時期だ。鍋より焼いた方が良いだろう」


「それも良いですな!」


先ほどの失敗は


もう忘れたらしい。


祐兵(すけたか)が苦笑する。


こうして二人は


初夏の山の恵みを手に


飫肥の城下へ戻るのだった。

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