第二百五十二話 潮風のまどろみ
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
昼下がり。
空は青く晴れ渡っていた。
梅雨の晴れ間である。
白い雲がゆっくり流れ
日向灘からの風が心地よく吹いていた。
伊東祐兵と島津豊久は
城下から少し離れた浜辺へ来ていた。
波は穏やか。
ざあん。
ざあん。
静かな音が繰り返される。
砂浜には人影も少ない。
「良い天気ですなあ」
豊久が大きく伸びをした。
「暑すぎず、ちょうど良い」
祐兵も頷く。
浜辺には流木が転がり
小さな貝殻が散らばっていた。
小春は
波打ち際へ近づいている。
興味津々だ。
だが。
ざぷん。
波が少し寄せる。
「にゃっ!」
慌てて飛び退いた。
豊久が笑う。
「海は苦手ですかな」
黒猫は少し高い岩の上。
潮風を受けながら
静かに海を眺めていた。
二人は松の木陰へ腰を下ろす。
風が通る。
葉がさらさらと鳴った。
遠くでは
漁師の小舟がゆっくり進んでいる。
「平和ですな」
豊久が呟く。
「ああ」
祐兵も海を見つめる。
戦もない。
争いもない。
聞こえるのは波の音だけ。
しばらくすると
豊久はごろんと横になった。
「少し休みますぞ」
「寝る気か」
「この風では仕方ありませぬ」
祐兵は苦笑した。
だが。
自分も松へ背を預ける。
潮風が気持ち良い。
六月の日差しも
木陰では柔らかかった。
小春が
豊久の腹の上へ乗る。
ちょうど良い場所らしい。
「にゃあ」
「好きにするがよい……」
もう半分眠っている。
黒猫も岩から降りてきた。
祐兵の隣へ座る。
珍しいことである。
波の音。
風の音。
松葉の囁き。
ゆっくりと時間が流れていく。
やがて。
豊久の寝息が聞こえ始めた。
「すぅ……」
小春も眠っている。
黒猫は目を閉じていた。
祐兵はそんな様子を見て
少しだけ笑った。
「全く……」
だが。
その声にも
どこか穏やかさがあった。
六月の浜辺。
青い海。
白い雲。
二人と二匹は
潮風に包まれながら
しばし静かな昼寝を楽しむのだった。




