第二百三十八話 朝の湯漬け
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
翌朝。
山の空気は冷たく
空には薄い雲が流れていた。
囲炉裏には火。
ぱちぱちと薪が鳴っている。
伊東祐兵は
昨夜、笹の葉に包んだ
ヤマメの皮を取り出していた。
丁寧な手つき。
「ほう……」
島津豊久が
興味深そうに覗き込む。
「身ではなく皮を使うのですか?」
「ああ」
祐兵が頷く。
「脂がのっている。湯漬けに合う」
炙られたヤマメの皮は
香ばしい匂いを漂わせていた。
ぱりっと焼けている。
その横では
刻んだ大葉。
青々とした香り。
炊きたての飯が椀へ盛られる。
「朝から贅沢ですな……」
豊久が嬉しそうに笑った。
祐兵は焼いた皮を細かく裂き
飯の上へ乗せる。
さらに。
刻み大葉。
白胡麻。
最後に熱い茶を注いだ。
さらさら、と音がする。
湯気が立ち上る。
香ばしい魚の香りと
大葉の爽やかな匂いが広がった。
「……これは堪りませぬ」
豊久の目が輝く。
「熱いから慌てるな」
「はい!」
だが。
次の瞬間。
ずずっ。
「あつっ!」
案の定だった。
祐兵が呆れ顔になる。
「だから言った」
「しかし美味い!」
豊久が顔を綻ばせる。
「皮がぱりぱりしておりますぞ!」
「脂も良い」
祐兵も静かに口へ運ぶ。
熱い茶。
香ばしい皮。
大葉の香り。
朝の冷えた身体へ
じんわり染み込んでいく。
「山で食べる魚も良いですが、こうして朝に食べるのも良いですな」
豊久が言う。
「ああ」
静かな朝。
囲炉裏の火。
外では風が木々を揺らしていた。
小春は
豊久の横で香りを嗅いでいる。
「にゃあ」
「駄目だ。これは熱い」
豊久が笑う。
黒猫は囲炉裏の近く。
細めた目で
湯気を見つめていた。
その時。
豊久の箸が止まる。
「……祐兵殿」
「なんだ」
「おかわりはありますかな」
「ある」
豊久の顔がぱっと明るくなった。
「やはり朝は飯ですな!」
「お前の場合、昼も夜もだろう」
祐兵が苦笑する。
外では
朝日が少しずつ山を照らしていた。
穏やかな朝。
囲炉裏の湯気と笑い声が
静かに館へ広がっていた。




