第二百三十六話 台風一過
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
翌朝。
空は澄み渡っていた。
昨夜の暴風が嘘のように
青空が広がっている。
だが——
城下には
台風の爪痕が残っていた。
折れた枝。
倒れた屋台。
散らばった木桶。
道には葉が積もり
あちこちに水溜まりができている。
「これは大変ですな」
島津豊久が
周囲を見回した。
伊東祐兵は静かに頷く。
「ああ。まずは片付けだ」
朝早くから
町人たちも外へ出ていた。
皆、箒や縄を持っている。
「祐兵さま!」
「豊久さま!」
人々が頭を下げる。
「怪我人は?」
祐兵が尋ねる。
「幸い、大きな怪我はありません!」
魚屋の主人が答えた。
「屋根が飛んだ家はあるが、命に別状はないそうです」
「それは良かった」
豊久がほっと息を吐く。
「では、手分けして片付けましょう!」
「おおーっ!」
町人たちの声が上がった。
小春は
濡れた地面を慎重に歩いている。
水溜まりが嫌らしい。
ぴょん、と避けた。
黒猫は塀の上。
静かに城下を見下ろしていた。
「豊久殿、そちらの材木を頼む」
「任せてくだされ!」
豊久が倒れた屋台を持ち上げる。
筋肉が盛り上がる。
「おおおっ!」
ぐい、と持ち上がった。
周囲から感嘆の声。
「さすが島津さま!」
「力持ちだ!」
豊久が少し照れる。
「いやあ、それほどでも」
その横で。
祐兵は崩れた柵を調べていた。
「この縄をこちらへ。柱はまだ使える」
「はい!」
町人たちへ的確に指示を出す。
無駄がない。
次々に道が片付いていく。
昼頃には
市場通りもかなり綺麗になっていた。
その時。
「あっ!」
子どもの声。
風で飛ばされた桶が
川へ流されそうになっている。
豊久が即座に走った。
「危ない!」
ざぶっ。
水へ踏み込む。
そのまま桶を掴み取った。
「取れましたぞ!」
子どもたちが歓声を上げる。
「豊久さまー!」
「風邪を引くぞ」
祐兵が呆れ顔で手拭いを投げた。
「ははは!」
豊久は頭を拭きながら笑う。
昼過ぎ。
片付けが一段落した。
市場では
炊き出しが始まっていた。
温かな雑炊。
焼き味噌の香り。
皆、疲れた顔で笑っている。
「こういう時こそ、助け合いですな」
豊久が椀を持ちながら言う。
「ああ」
祐兵も頷いた。
「町が無事だったのは、皆が備えていたからだ」
小春は
雑炊の匂いにそわそわしている。
「駄目だぞ」
祐兵が言う。
「にゃあ……」
不満そうだ。
黒猫は日向で毛づくろい。
もう完全に落ち着いていた。
風は穏やかだった。
青空が広がる。
台風は去った。
そして城下には
またいつもの日常が戻り始めていた。




