第二百三十話 草原の昼寝
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
昼。
空は高く青い。
白い雲がゆっくり流れ
春の風が草原を渡っていた。
伊東祐兵と島津豊久は
町外れの草原へ来ていた。
草が揺れる。
陽の匂い。
遠くで鳥が鳴く。
穏やかな景色。
「良い場所ですなあ……」
豊久が大きく伸びをする。
「ああ」
祐兵も周囲を見渡す。
小春は草の中を歩き回り
時折ぴょんと跳ねる。
虫でも追っているのだろう。
黒猫は少し高い岩へ飛び乗り
最初から眠そうな顔をしていた。
「ここなら昼寝にちょうど良いですぞ」
豊久が言う。
「最初からそのつもりだったろう」
祐兵が返す。
豊久が笑う。
「見抜かれておりましたか」
二人は草の上へ腰を下ろす。
風が吹く。
心地よい。
豊久はそのまま後ろへ倒れる。
「……空が広いですな」
祐兵も草へ横になる。
空を見る。
流れる雲。
静かな青。
小春が近寄ってくる。
豊久の腹の上へ飛び乗った。
「おおっ」
豊久が笑う。
「お前も眠いのか」
小春は丸くなる。
満足そうだ。
黒猫は祐兵の近くへ。
少し距離を置き
静かに伏せる。
風が草を揺らす。
さらさら、と音が流れる。
「静かですな……」
豊久が呟く。
「ああ」
祐兵も目を閉じる。
遠くで鳥。
虫の声。
それだけ。
やがて。
豊久の呼吸がゆっくりになる。
眠った。
小春も一緒に寝息を立てる。
祐兵は薄く目を開ける。
その様子を見る。
黒猫は半目のまま。
だが耳だけは動いている。
「……見張りか」
祐兵が小さく言う。
黒猫は返事もせず
尻尾だけを揺らした。
春風。
陽の暖かさ。
草の匂い。
何も起こらぬ午後。
だが。
それこそが穏やかだった。
草原の真ん中で。
二人と二匹は
静かな春の眠りへ身を委ねていた。




