第二百二十九話 春陽の町歩き
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
昼前。
空は澄み
春の陽が城下へ穏やかに降り注いでいた。
伊東祐兵と島津豊久は
町をゆっくり歩いている。
その後ろを。
小春が軽やかについて来る。
黒猫は塀の上を気ままに進んでいた。
往来は賑やか。
野菜売りの声。
鍛冶場の槌音。
焼き魚の香り。
町の活気が満ちている。
「今日は人が多いですな」
豊久が辺りを見回す。
「ああ」
祐兵が頷く。
「陽気が良いからだ」
道端では子供たちが遊んでいる。
竹馬。
追いかけっこ。
笑い声。
小春がその輪へ近づく。
子供たちが気付いた。
「猫だ!」
「小春だ!」
撫でられる。
小春は満更でもない顔。
喉を鳴らしている。
黒猫は少し離れた屋根の上。
こちらは知らぬ顔で毛繕い。
「随分扱いが違いますな」
豊久が笑う。
「あれはあれで良い」
祐兵が言う。
さらに歩く。
茶屋の前。
団子を焼く香りが漂う。
豊久の足が止まる。
同時に。
小春も止まる。
「……似た者同士だな」
祐兵が静かに言う。
「これは仕方ありませぬ」
豊久が真顔で答える。
店主が笑う。
「兄さん、今日も団子かい?」
「はい!」
返事が早い。
炭火で焼かれる団子。
味噌の香り。
香ばしい煙。
豊久が頬張る。
「熱っ……ですが旨い!」
祐兵も一本受け取る。
静かに食べる。
「悪くない」
小春は団子を見上げる。
だが。
「駄目だ」
祐兵に止められる。
黒猫は屋根の上からそれを見て
小さく欠伸をした。
橋へ出る。
川が陽を映して光る。
風が吹き抜ける。
豊久が欄干へ手を置く。
「平和ですなあ……」
祐兵も川を見る。
「ああ」
短い言葉。
だが穏やかだった。
小春は橋の上で寝転がり
黒猫は欄干へ飛び乗る。
危なげなく歩いていく。
「見事な足運びですな」
豊久が感心する。
「おぬしより静かだ」
「それは否定できませぬ」
豊久が笑った。
春風が吹く。
町には人の営み。
穏やかな日常。
その中を。
二人と二匹は
今日もゆっくり歩いていた。




