第二百二十八話 朝餉の味噌汁
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
鍛錬を終えた朝。
庭には陽が差し始め
空気も少しずつ暖かくなっていた。
「腹が減りましたな……」
島津豊久が
木槍を片付けながら言う。
「毎回言っている」
伊東祐兵が返す。
台所。
火が入る。
鍋から湯気。
味噌の香りが広がっていく。
祐兵は鍋を見ながら
静かに味を整える。
具は大根。
芋がら。
それに刻んだ葱。
素朴な味噌汁。
豊久は飯をよそう。
湯気の立つ飯。
漬物も並べる。
「良い匂いですなあ……」
豊久が鼻を鳴らす。
祐兵が椀へ味噌汁を注ぐ。
湯気が立ち上る。
味噌の香り。
朝の匂い。
「いただきます」
二人同時に手を合わせる。
豊久がまず味噌汁を啜る。
「……ふぅ」
思わず息が漏れる。
「身体へ染みますな」
「朝だからな」
祐兵も静かに飲む。
大根は柔らかい。
出汁が染みた芋がら。
葱の香りが立つ。
「やはり鍛錬の後は違います」
豊久が飯を頬張る。
「味噌汁だけで飯が進みますぞ」
「漬物も食え」
豊久が笑う。
「もちろんです」
外では鳥の声。
風が庭を抜ける。
穏やかな朝。
小春が縁側へ現れる。
鼻をひくひく。
味噌汁の香りを嗅いでいる。
「お前は駄目だ」
祐兵が言う。
小春は不満そうに鳴いた。
その後ろ。
黒猫も姿を見せる。
だがこちらは興味なさそうに座るだけ。
「黒猫は落ち着いておりますな」
豊久が言う。
「あいつは食い物より日向だ」
黒猫はその言葉通り
陽の当たる場所で丸くなる。
味噌汁を飲む。
飯を食う。
静かな朝餉。
特別ではない。
だが。
それが心を落ち着かせる。
「さて」
祐兵が椀を置く。
「今日も動くか」
豊久が勢いよく頷く。
「はい!」
春の朝。
湯気の向こうで。
二人と二匹の穏やかな一日が
また始まっていくのだった。




