第二百二十七話 朝露の鍛錬
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
暁。
空はまだ薄青く
東の空が静かに白み始めていた。
庭には朝露。
草葉が光を受けて輝いている。
伊東祐兵は
すでに庭へ出ていた。
手には木刀。
静かに立つ。
呼吸は深く
乱れがない。
やがて。
「……寒いですな」
島津豊久が現れる。
肩を回しながら歩いてくる。
手には木槍。
「身体を動かせば温まる」
祐兵が言う。
「それもそうですな」
豊久が笑う。
向かい合う。
距離を取る。
空気が変わる。
朝の静けさ。
鳥の声すら遠い。
あるのは気配だけ。
「参る」
豊久が踏み込む。
鋭い突き。
祐兵は半歩ずれる。
木刀で槍を流す。
乾いた音。
「……!」
豊久はすぐに木槍を引く。
次の動きへ繋げる。
「悪くない」
祐兵が言う。
その瞬間。
祐兵が踏み込む。
速い。
木刀が下から跳ね上がる。
豊久が受ける。
衝撃。
腕が痺れる。
「くっ……!」
「力で止めるな」
祐兵の声。
「流せ」
豊久が息を整える。
構え直す。
再び。
今度は慎重に。
間を測る。
呼吸を見る。
風が吹く。
袖が揺れる。
豊久が動く。
突き。
だが途中で変化。
槍先が流れる。
祐兵の目がわずかに細まる。
「良い」
木刀が閃く。
豊久は退かない。
槍を滑らせ
受け流す。
「……!」
今度は崩れない。
祐兵がわずかに頷く。
「掴んできたな」
豊久の顔に笑み。
「少しだけです」
さらに打ち合う。
木と木。
乾いた音が朝へ響く。
激しくはない。
だが。
一つ一つを確かめる鍛錬。
やがて。
祐兵が木刀を下ろす。
「今日はここまでだ」
豊久も木槍を下ろす。
息を吐く。
白い。
縁側。
小春が丸くなっている。
黒猫は塀の上。
静かに二人を見下ろしていた。
「見られておりますな」
豊久が笑う。
小春は欠伸をする。
黒猫は興味なさそうに目を細めた。
「……評価は厳しそうだ」
祐兵が言う。
豊久が吹き出す。
「それは勝てませぬな」
朝日が昇る。
庭へ光が差す。
新しい一日。
二人は汗を拭いながら
静かな朝の空気を味わっていた。




