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祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


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第二百二十五話 春風の往来

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵《いとうすけたか》。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久《しまづとよひさ》。島津氏家臣で、島津家久《しまづいえひさ》の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

昼過ぎ。


春の陽はやわらかく


城下町を穏やかに照らしていた。


伊東祐兵《いとう すけたか》と島津豊久《しまづ とよひさ》は


いつものように町を歩いている。


その後ろを。


小春《こはる》が尻尾を立ててついて来る。


さらに。


少し離れて黒猫も歩いていた。


「また来ておりますな」


豊久(とよひさ)が振り返る。


小春《こはる》は当然のような顔。


黒猫は気まぐれそうに欠伸をした。


「好きにさせておけ」


祐兵(すけたか)が言う。


往来には人の流れ。


商人。


旅人。


買い物帰りの女たち。


子供たちの笑い声。


「今日は賑やかですな」


豊久(とよひさ)が言う。


「ああ」


祐兵(すけたか)が静かに頷く。


乾物屋の前。


魚の干物が並ぶ。


香ばしい匂い。


その瞬間。


小春《こはる》がぴたりと止まる。


鼻をひくひく。


「……狙っておりますな」


豊久(とよひさ)が笑う。


黒猫も干物を見上げる。


じっと。


店主が苦笑した。


「こいつぁ油断できねえな」


祐兵(すけたか)が小春《こはる》の首を軽く押さえる。


「駄目だぞ」


小春《こはる》は不満そうに鳴いた。


黒猫は知らぬ顔でそっぽを向く。


さらに歩く。


鍛冶屋。


槌音が響く。


火花。


熱気。


職人が鉄を打つ。


一定の間隔。


無駄のない動き。


豊久(とよひさ)が見入る。


「見事ですな……」


「ああ」


祐兵(すけたか)も頷く。


「積み重ねた者の動きだ」


その足元。


小春《こはる》は丸くなり始める。


暖かいのだろう。


「おい」


豊久(とよひさ)が抱き上げる。


「そこは危ないですぞ」


黒猫は少し離れた樽の上へ飛び乗り


細めた目で眺めていた。


再び通りへ。


風が抜ける。


暖簾が揺れる。


小さな茶屋の前。


団子を焼く匂い。


豊久(とよひさ)の足が止まる。


同時に。


小春《こはる》も止まる。


「……お前もか」


祐兵(すけたか)が言う。


小春《こはる》は「にゃあ」と鳴く。


黒猫まで座り込む。


「これは買わねば進めませぬな」


豊久(とよひさ)が真顔で言う。


焼きたての団子。


香ばしい味噌の香り。


豊久が頬張る。


「熱っ!」


祐兵(すけたか)がわずかに目を細める。


「学ばぬな」


小春《こはる》は団子をじっと見つめる。


だが。


「お前は駄目だ」


祐兵(すけたか)に止められる。


黒猫は興味を失ったように


先に歩き出していた。


橋へ出る。


川が陽を映す。


きらきらと光る。


風が心地よい。


小春《こはる》は欄干へ前足を乗せ


川を覗いている。


黒猫は橋の上で香箱(こうばこ)座りで


昼寝を始めた。


「自由ですなあ」


豊久(とよひさ)が笑う。


「ああ」


祐兵(すけたか)も静かに頷く。


人々は変わらず行き交う。


笑い、働き、生きている。


その中を。


二人と二匹はゆっくり歩く。


春風の中を。


穏やかな日常の中を。

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