第二百二十四話 春日の双六
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
午後。
春の陽が庭へ差し込み
風がやわらかく吹いていた。
伊東祐兵は
縁側で茶を飲んでいる。
その隣には
島津豊久。
穏やかな昼下がり。
その時。
門の外から声。
「祐兵さまー!」
元気な声。
子供たちだ。
「どうした」
豊久が門を開ける。
そこには近所の子供が三人。
手には木板。
「双六を作ったんだ!」
「一緒に遊んでください!」
豊久の顔が明るくなる。
「ほう、双六!」
すぐに振り返る。
「祐兵殿、やりましょう!」
「……なぜ俺も入る」
祐兵が静かに言う。
「人数は多い方が楽しいですぞ」
結局、庭へ筵を敷き
双六が広げられる。
手描きの升目。
少し曲がっている。
だが味がある。
「ここが振り出し!」
「ここが上がり!」
子供たちが楽しそうに説明する。
「では始めますぞ!」
豊久が賽を振る。
ころころ、と転がる。
「三!」
勢いよく進む。
子供たちも続く。
笑い声。
賑やかな空気。
祐兵も静かに賽を振る。
「……また、一か」
「祐兵さま、遅い!」
子供が笑う。
豊久が吹き出す。
「勝負事は分かりませぬな」
升目には色々書いてある。
『川へ落ちる 一回休み』
『団子を食べる 三つ進む』
『昼寝をする 二つ戻る』
「昼寝で戻るのですか」
豊久が笑う。
「作ったの誰だ」
祐兵が問う。
「ぼく!」
小さな子が胸を張る。
「面白い」
祐兵が言う。
子供が嬉しそうに笑う。
勝負は進む。
豊久は勢いが良い。
だが——
『橋で転ぶ 五つ戻る』
「ぬぁっ!?」
豊久が頭を抱える。
子供たちが大笑い。
小春と黒猫は木陰で蹲り
皆を眺めている。
祐兵は静かに進む。
少しずつ。
確実に。
やがて。
「……上がりだ」
祐兵の駒が最後へ届く。
「すごい!」
「いつの間に!?」
子供たちが驚く。
豊久が崩れ落ちる。
「気付けば負けておりました……」
祐兵が小さく息を吐く。
「焦るからだ」
子供たちは楽しそうに笑う。
「もう一回!」
「次は負けない!」
豊久が立ち上がる。
「受けて立ちますぞ!」
春風が吹く。
笑い声が庭へ広がる。
穏やかな午後。
遊びの時間。
戦も鍛錬も忘れ。
二人は子供たちと共に
静かな日常を楽しんでいた。




