第二百二十三話 朝靄の道
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
早朝。
空はまだ淡く
東の空にわずかな光が差し始めていた。
庭には朝露。
草葉が静かに濡れている。
伊東祐兵は
縁側へ出る。
冷たい空気が頬を撫でた。
「お早いですな」
島津豊久が現れる。
まだ少し眠そうだ。
「歩くぞ」
祐兵が言う。
「はい」
豊久も頷く。
二人は町外れの道を歩き始める。
朝靄。
薄く白い。
遠くの景色がぼやけている。
足音だけが静かに響く。
人はまだ少ない。
店も閉じたまま。
「朝の空気は違いますな」
豊久が深く息を吸う。
「ああ」
祐兵も前を見たまま答える。
「頭が静かになる」
道端。
小さな花が咲いている。
露が光る。
川へ出る。
水面には薄い霧。
流れは穏やか。
橋の上で足を止める。
風が吹く。
冷たい。
だが心地よい。
「静かですなあ……」
豊久が呟く。
「ああ」
遠くで鳥が鳴く。
一日の始まりを告げる声。
やがて。
町の方から音がし始める。
戸を開ける音。
荷を運ぶ音。
人々が動き始める気配。
「町が起きますな」
豊久が言う。
「そうだな」
祐兵は静かに周囲を見る。
「こういう時が、一番隙が少ない」
「皆、まだ余計なことを考えておらぬからですか?」
「ああ」
再び歩く。
朝靄の中を。
ゆっくりと。
茶店の前を通る。
店主が暖簾を掛けていた。
「おはようございます」
「おう、早いなあ」
穏やかな挨拶。
豊久が笑う。
「腹が減ってきました」
「歩けばそうなる」
「帰ったら飯ですな」
祐兵の口元がわずかに緩む。
朝日が昇る。
靄が晴れていく。
町が光を帯びる。
新しい一日。
穏やかな始まり。
二人は並んで歩く。
静かな朝の中を。
ゆっくりと。




