第二百二十一話 朝の湯漬け
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
朝。
まだ空気は冷たく
庭には薄い朝露が残っている。
台所では
静かに火が起こされていた。
伊東祐兵は
炭火の前に座る。
手には昨夜残しておいたヤマメの皮。
丁寧に水気を拭い
網へ乗せる。
じり、と音。
皮が反る。
脂が浮き
香ばしい匂いが広がる。
「……良い匂いですな」
島津豊久が
眠そうな顔で現れる。
「起きたか」
「その匂いで目が覚めました」
祐兵は小さく頷く。
「飯をよそえ」
「はい」
白飯。
湯気が立つ。
その上へ
炙ったヤマメの皮を乗せる。
さらに。
焼き味噌。
味噌を竹べらへ塗り
炭火で炙る。
香ばしさが立つ。
「朝から贅沢ですなあ……」
豊久が嬉しそうに言う。
「大げさだ」
湯を注ぐ。
さらさらと音を立て
湯気が立ち上る。
湯漬け。
「いただきます」
二人同時に箸を取る。
豊久が一口。
熱い。
だが。
「……うまい!」
思わず声が出る。
炙った皮の脂。
香ばしさ。
湯の優しい熱。
すべてが身体へ染みる。
祐兵も静かに口へ運ぶ。
「良い」
短い言葉。
だが満足げ。
豊久は焼き味噌を少し崩し
湯漬けへ混ぜる。
香りがさらに広がる。
「これがまた……!」
「入れすぎるな」
祐兵が言う。
「味が強くなる」
豊久が頷く。
「なるほど……」
今度は少しだけ。
味が変わる。
深みが増す。
「朝にちょうど良いですな」
「ああ」
外では鳥の声。
風が木々を揺らす。
穏やかな朝。
食べ終える。
身体が温まる。
力が巡る。
「さて」
祐兵が立ち上がる。
「今日も動くか」
「はい!」
豊久も勢いよく立つ。
静かな朝餉。
だが、確かに力となる。
春の朝。
二人は今日もまた
穏やかな日常へ歩み出していった。




