第二百二十話 川辺の塩焼き
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
昼。
春の陽が川面を照らす。
水は澄み
風は心地よい。
伊東祐兵と島津豊久は
釣ったヤマメを川辺へ並べていた。
「良い型ですな」
豊久が嬉しそうに言う。
串に通されたヤマメ。
銀の鱗が光る。
祐兵は炭を組む。
小枝。
乾いた葉。
火打石。
やがて。
火が起きる。
ぱち、と音を立てる。
「火は強すぎず」
祐兵が炭を動かす。
「じっくり焼く」
「はい」
塩を振る。
丁寧に。
尾にも化粧塩。
串を立てる。
炭火の前。
少し離して並べる。
じりじり、と音。
脂が落ちる。
香ばしい匂いが立ち上る。
「……たまりませぬな」
豊久が真顔で言う。
祐兵は火加減を見ている。
皮が焼ける。
ぱり、と音を立てる。
身が白く変わっていく。
「まだだ」
祐兵が言う。
「ここで急ぐと水っぽくなる」
豊久が唸る。
「修行ですな……」
しばし待つ。
川音。
火の音。
風。
穏やかな時間。
やがて。
祐兵が一本手に取る。
「良い」
豊久の目が輝く。
「待っておりました!」
「いただきます」
二人同時に。
豊久がかぶりつく。
「熱っ……!」
だが止まらない。
「……うまい!」
声が響く。
皮は香ばしく
身はふっくらとしている。
祐兵も静かに食べる。
炭火の香り。
ヤマメの脂。
塩の加減。
「……良い焼きだ」
「釣った魚は違いますな」
豊久が言う。
「ああ」
祐兵も頷く。
頭まで丁寧に食べる。
骨を外し
残さない。
「次は味噌も良いかもしれませぬ」
豊久が言う。
「それも悪くない」
川辺に風が吹く。
火の匂い。
水の音。
食べ終え
二人はしばし空を見上げる。
青空。
流れる雲。
「良い昼ですな」
豊久が言う。
「ああ」
祐兵が答える。
自然の恵み。
静かな時間。
それを味わいながら。
二人はまた
穏やかな一日を過ごしていた。




