第二百十八話 午後の城下
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
午後。
春の陽は穏やかで
城下町をやわらかく照らしていた。
伊東祐兵と島津豊久は
通りをゆっくり歩いている。
風が抜ける。
暖簾が揺れる。
人々の声。
笑い声。
今日も町は賑やかだ。
「平和ですなあ」
豊久が言う。
「ああ」
祐兵が短く応じる。
魚屋の前。
威勢の良い声。
桶の中で魚が光る。
「今日はヤマメはありませぬな」
豊久が覗き込む。
「この前食ったばかりだ」
「旨かったので」
祐兵は小さく息を吐く。
「また釣れば良い」
「それです!」
さらに歩く。
紙売り。
染物屋。
香の店。
通るたび、違う匂いが漂う。
通りの角。
焼き団子の屋台。
炭火の上で団子が焼かれている。
香ばしい匂い。
味噌だれの香りが風に乗る。
「……祐兵殿」
豊久が足を止める。
「顔に出ている」
祐兵が先に言う。
「ですが、あれは止まりますぞ」
「確かにな」
珍しく祐兵も視線を向ける。
屋台の主が笑う。
「焼きたてだよ!」
豊久は即座に二本頼む。
祐兵が横を見る。
「一本で良い」
「二人で二本です」
「……なら良い」
団子を受け取る。
熱い。
炭の香り。
「いただきます」
豊久が頬張る。
「うまい……!」
祐兵も一口。
香ばしさ。
甘辛い味噌。
「……良い焼き加減だ」
屋台の主が嬉しそうに笑う。
「毎朝、炭を選んでるからねえ」
二人は歩きながら団子を食べる。
春風。
穏やかな陽。
橋へ出る。
川が光る。
水面が揺れる。
「良い流れです」
豊久が欄干に手を置く。
「ああ」
祐兵も川を見る。
しばし無言。
水音だけ。
その時。
向こうから子供たちが駆けてくる。
「うわっ!」
危うくぶつかりそうになる。
豊久が素早く避ける。
祐兵も半歩ずれる。
子供たちは慌てて頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!」
「走るなら、前を見ることだ」
祐兵が静かに言う。
「はい!」
子供たちは元気よく返事し
また走っていった。
豊久が笑う。
「元気ですな」
「あれくらいで良い」
町を歩く。
何気ない時間。
何気ない景色。
だが。
それが続くことこそ大切。
春の午後。
穏やかな城下。
その中を。
二人は今日も並んで歩いていた。




