第二百十五話 春の食べ歩き
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
昼。
空は青く
春の風が町を抜けていく。
伊東祐兵と島津豊久は
城下を歩いていた。
「今日は人が多いですな」
豊久が辺りを見回す。
「ああ。陽気が良い」
祐兵も通りを見る。
町は活気に満ちていた。
屋台。
茶店。
焼き物の匂い。
甘い香り。
腹を誘うものばかり。
「……祐兵殿」
豊久が足を止める。
視線の先。
焼き団子。
香ばしく炙られている。
「まだ昼だぞ」
祐兵が言う。
「だからこそです」
「意味が分からぬ」
だが。
豊久の目は真剣。
祐兵は小さく息を吐く。
「一本だけだ」
「やった」
団子を受け取る。
湯気。
甘辛い香り。
「いただきます」
豊久が頬張る。
「……うまい!」
顔がほころぶ。
祐兵も一口。
「悪くない」
静かな評価。
さらに歩く。
今度は揚げ菓子。
油の香り。
「これは軽いですぞ」
豊久が言う。
「先ほども聞いた」
結局。
買う。
「……熱っ」
豊久が慌てる。
祐兵がわずかに笑う。
「急ぐからだ」
通りを進む。
果物売り。
焼き魚。
干菓子。
見るものが尽きない。
「町を歩くと、腹が減りますな」
豊久が真顔で言う。
「歩かずとも減るだろう」
祐兵が返す。
豊久が笑う。
「否定できませぬ」
橋の近く。
焼き魚の屋台。
香ばしい匂いが漂う。
「……あれは旨そうだな」
珍しく。
祐兵の足が止まる。
豊久が目を見開く。
「祐兵殿から言い出すとは!」
「うるさい」
魚を受け取る。
炭火の香り。
皮はぱりりとしている。
「これは……良い焼き加減ですな」
豊久が頷く。
祐兵も静かに食べる。
「火が上手い」
川風が吹く。
人々が笑い、行き交う。
穏やかな時間。
「こういう日も良いものですな」
豊久が言う。
「ああ」
祐兵も頷く。
最後に茶屋へ。
茶を飲み、一息つく。
「食べましたなあ……」
豊久が満足げに言う。
「おぬしがな」
「祐兵殿も食べておられました」
祐兵は茶を飲む。
わずかに口元が緩む。
外では春風。
穏やかな町。
変わらぬ日々。
その中を。
二人は今日も歩く。
笑いと共に。




