第二百十二話 庭の土俵
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
午後。
陽は高く
庭に柔らかな光が落ちる。
伊東祐兵は
庭を見ていた。
足元。
土。
「……ここでやるか」
「何をです?」
島津豊久が現れる。
祐兵は地面を指した。
「相撲だ」
豊久の目が輝く。
「ほう……!」
「力と間を見るのに、良い鍛錬になる」
二人は草を払い
簡素な土俵を作る。
円を描く。
土を固める。
「では——」
豊久が腕を回す。
祐兵は静かに立つ。
向かい合う。
裸足。
地の感触。
「行くぞ」
「ああ」
構え。
低く。
重心を落とす。
踏み込み。
ぶつかる。
鈍い音。
土が鳴る。
力と力。
押し合う。
「……重いですな」
豊久が歯を食いしばる。
「お前もだ」
祐兵が応じる。
一瞬。
祐兵が体をずらす。
崩す。
豊久が踏みとどまる。
「まだっ……!」
踏み返す。
押す。
前へ。
祐兵の足がわずかに動く。
だが。
その瞬間。
引く。
崩す。
流す。
豊久の体勢が崩れる。
「——っ!」
土に手。
勝負あり。
「……参りました」
豊久が息を吐く。
祐兵は一歩下がる。
「力はある」
祐兵が言う。
「だが、流れを見ることだ」
「はい……!」
豊久が頷く。
目はまだ熱い。
「もう一番」
「良いだろう」
再び構える。
今度は慎重に。
足の運び。
重心。
呼吸。
ぶつかる。
先ほどよりも柔らかい。
豊久が押す。
だが無理をしない。
祐兵が受ける。
流れを読む。
拮抗。
互いに譲らぬ。
やがて。
祐兵がわずかに笑う。
「良い」
次の瞬間。
土俵際。
際どい攻防。
豊久が踏み込み、押す。
祐兵が耐える。
一瞬の静止。
そして——
二人同時に崩れる。
土の上。
息を吐く。
「……引き分け、ですな」
豊久が笑う。
「ああ」
祐兵もわずかに頷く。
空を見上げる。
青い。
風が通る。
「面白い鍛錬でした」
「またやるか」
立ち上がる。
土を払う。
力と技。
ぶつかり合い。
そして知る。
庭の小さな土俵で。
二人はまた一つ
己を磨いた。




