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祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


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第二百十一話 往来の諍い

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵いとうすけたか。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久しまづとよひさ。島津氏家臣で、島津家久しまづいえひさの息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

昼下がり。


春の陽は穏やかで


城下にはゆるやかな賑わいが流れていた。


伊東祐兵いとう すけたか島津豊久しまづ とよひさ


通りを歩いている。


野菜売りの声。


鍛冶場の槌音。


行き交う人々。


いつもの城下。


――だが。


「ふざけるな!」


怒鳴り声。


通りの奥から響いた。


「そっちが先にぶつかったんだろうが!」


さらに怒声。


人だかり。


ざわめき。


「……行くぞ」


祐兵(すけたか)が言う。


「はい」


豊久(とよひさ)も頷く。


人垣を抜ける。


中央。


男が二人。


睨み合っている。


一人は魚屋。


腕まくりし、顔を真っ赤にしている。


もう一人は米問屋の男。


こちらも負けじと怒鳴り返していた。


足元には、破れた魚籠。


散らばった魚。


濡れた米袋。


どうやら荷がぶつかったらしい。


「だから謝れと言ってるんだ!」


「お前こそだろうが!」


今にも掴み合いになりそうだった。


「そこまでだ」


低い声。


空気が止まる。


祐兵(すけたか)が間へ入る。


豊久(とよひさ)もその横に立つ。


「何だあんたら」


魚屋が荒く言う。


「通りすがりだ」


祐兵(すけたか)が答える。


「だが、往来で怒鳴り合えば周囲が困る」


「「こいつが——」」


二人が同時に喋る。


「一人ずつ話せ」


祐兵(すけたか)の声。


静か。


だが通る。


男たちは言葉を止める。


まず魚屋。


荷を急いで運んでいたこと。


そこへ米袋がぶつかり、魚籠が落ちたこと。


次に米問屋。


魚屋が急に飛び出したこと。


米袋も破れたこと。


豊久(とよひさ)が辺りを見る。


散らばった魚。


濡れた米。


そして道。


「……なるほど」


豊久(とよひさ)が呟く。


「どちらも前を見ておらなんだだけですな」


男二人が黙る。


祐兵(すけたか)が静かに言う。


「互いに損をした」


「ならば、怒鳴っても戻らぬ」


魚屋が顔をしかめる。


「だが……」


「意地を張れば、さらに損をする」


沈黙。


通りの風が抜ける。


豊久(とよひさ)がしゃがみ、魚を拾う。


「ほら、手伝いなされ」


明るく言う。


「魚も米も、放っておけば駄目になりますぞ」


男たちは顔を見合わせる。


やがて。


「……悪かった」


魚屋が小さく言う。


「いや、俺も熱くなった」


米問屋も頭を掻く。


二人は無言で片付けを始める。


周囲の空気が緩む。


人々もほっと息をついた。


「それで良い」


祐兵(すけたか)が言う。


片付けが終わる頃。


魚屋が頭を下げた。


「助かりました」


米問屋も続く。


「お恥ずかしいところを……」


豊久(とよひさ)が笑う。


「次からは前に気をつけて、歩くことですな」


二人は苦笑しながら頷いた。


人だかりが散る。


町にいつもの流れが戻る。


祐兵(すけたか)殿」


豊久が歩きながら言う。


「戦より難しいものもありますな」


「ああ」


祐兵(すけたか)が静かに頷く。


「人の意地は、刃より扱いづらい」


春の風が吹く。


穏やかな往来。


その中を。


二人はまた静かに歩いていった。

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